現代病とも言われるアレルギー性鼻炎だが、薬物療法や減感作療法など、治療法や治療薬も日々進化している。仁友クリニック院長で、呼吸器内科が専門の杉原徳彦医師に、花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎の最新治療法について話を伺った。
解説者のプロフィール
杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)
医療法人社団仁友会仁友クリニック院長。医学博士。専門は呼吸器内科。日本内科学会認定医、日本アレルギー学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全日本スキー連盟アンチドーピング委員。著書に『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)などがある。
▼論文(NII学術情報ナビゲータ)
やっかいな「アレルギー性鼻炎」の治療法
鼻の疾患である、アレルギー性鼻炎の治療について、くわしく見ていきましょう。
アレルギー性鼻炎の治療法には、大きく分けて、
(1)薬物療法(飲み薬や点鼻薬を使う方法)
(2)減感作療法(アレルギーの原因物質を、少しずつ体に投与し慣らす方法)
の2つがあります。
ここでは、1つ目の「薬物療法」について見ていきます。
薬物療法での代表的な2つの薬
薬物療法では、花粉症などの季節性であれ、年間を通じて鼻炎が続く通年性のものであれ、
・抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、Th2サイトカイン阻害薬、トロンボキサンA2阻害薬など)
・鼻噴霧用ステロイド薬
などが用いられるのが一般的です。
「抗アレルギー薬」は、アレルギー反応が起こる際に放出されるヒスタミンやロイコトリエンといった、化学伝達物質の作用をブロックする働きがあります。
それにより、鼻の粘膜の炎症を鎮め、くしゃみや鼻水、鼻づまりなどの症状を抑えてくれる効果があります。
抗ヒスタミン薬の場合は、服用するとだいたいすぐに症状の改善が見られます。
それ以外の薬でも、だいたい1〜2週間くらい飲み続けると、多くの患者さんで効果を感じておられるようです。
ただし、あくまでも症状が改善するだけであり、これらの薬によってアレルギー性鼻炎が完治するわけではありません。
なお、抗ヒスタミン薬には、強い眠気や集中力の低下、のどの渇きがひどくなるといった副作用がありますが、最近は、以前ほど眠気をもよおさない薬も登場しています。
一方、点鼻薬の「鼻噴霧用ステロイド薬」には、鼻づまりを解消する効果があります。
ただ、効果が出るまでに多少の時間がかかります。
なお、点鼻薬は咳喘息で処方される吸入ステロイドと同じく局所投与であり、かつ含まれるステロイドの量も少ないので、処方されたとおりに適切に使えば副作用は、ほとんどないといえるでしょう。
点鼻薬としては、血管収縮薬を使ったものもあります。
鼻の粘膜にはたくさんの血管が走っており、この薬を用いることで、鼻の粘膜を収縮させ、鼻詰まりを解消していく効果があります。
即効性があり、市販の点鼻薬でもよく使われているのですが、使いすぎや長期の使用に向きません。というのも、使っているうちにだんだんと効かなくなり、さらには鼻の粘膜内に二次充血が起こり、鼻詰まりを悪化させ、薬剤による肥厚性鼻炎(鼻の粘膜が厚くなる鼻炎)になることがあるからです。
長期で使用する可能性が高い場合には、医師と相談し、過剰な使用は避けたほうがいいでしょう。
ステロイド注射は注意が必要
花粉症では、「注射」による治療を行うこともあります。
よく使われるのが、咳喘息の治療でも使われる「ヒスタグロビン注射」です。
また、「ケナコトル」というステロイドに属する薬を用いる注射(ステロイド注射)も、花粉症の治療では用いられることがあります。
かなり効果の高い薬で、シーズン前に1本打てば、そのシーズンは花粉症知らずに過ごせるともいわれています。
しかし、医師としては、ステロイド注射による治療は、あまりおすすめできません。
注射の場合は全身投与となり、副作用が懸念されるからです。
ステロイドが全身に吸収されると、その成分が体に長く残るので、注意しなければなりません。
糖尿病や高脂血症、女性であれば生理不順、骨粗しょう症などを発症するリスクが高くなるのです。また、ごくまれにですが、1回のステロイド注射によって副腎不全を起こすという報告もあります。
そのため、医療機関の中には、自費診療でしか行わないところもあります。
ただ、花粉症のシーズンに結婚式があるといった、「どうしても」という場合に、「一生に一度」のつもりで注射するぶんには、それほど気にする必要はありません。
なお、アレルギー性鼻炎の治療では一般的に、こうした薬物療法と並行して、アレルギー原因物質との接触を、日常生活で避けることも重要になります。これは、アレルギーが原因の咳喘息や気管支喘息でも同様です。
アレルギー性鼻炎を体質から改善する「減感作療法」
前項で紹介した薬物療法は、アレルギー体質そのものを改善していく効果があるわけではありません。
薬の服用をやめてしまい、その状態でアレルギーの原因物質に触れると、高い確率で再びアレルギー反応を起こしてしまいます。
そのため、かつては「アレルギー疾患を根治するのは難しい」という考え方が医療の世界での常識でした。
ところが、いまではアレルギー体質そのものを改善していく治療法が登場しています。それが、「減感作療法」です。
これは、アレルギーの原因物質を少しずつ体に投与し慣らしていくことで、その物質に対するアレルギー体質を改善していく治療法です。
その結果、鼻の炎症がとれていき、鼻水や鼻づまりが解消されていきます。
また、鼻の粘膜の腫れもひいていくので、迷走神経の反射によって起こる咳もおさまっていきます。
その治療効果はかなり高く、花粉症については完治率が7割ともいわれています。
さらに、アレルギー体質の改善だけではなく、喘息の発症を抑える効果もあることがわかっています。
そのほか、新たなアレルギー獲得を抑制するという報告もあります。
アレルギーの原因物質がわかっている場合は、この減感作療法を行う意義はあります。ただし、種類には限りがあります。
ただ、薬物療法のように効果がすぐに出るわけではありません。
患者さんが効果を実感できるまでには、最低でも3〜4カ月くらいかかるのが一般的です。
また、効果が出始めたからといって、そこで治療をやめると、アレルギー体質が戻ってきやすくなるため、完治するまで続ける必要があります。
めやすとしては、3〜5年続ける必要があるといわれており、WHO(世界保健機関)も、そのようにすすめています。
また、花粉症の場合、薬物療法では花粉が飛散している時期のみ行えばいいのですが、減感作療法では飛散シーズンに関係なく治療を続けなければいけません。
その意味でも、減感作療法はアレルギー体質改善に非常に効果の期待できる治療法ではありますが、長期戦になることは心に留めておきましょう。
減感作療法での代表的な2つの治療法
減感作療法には、
(1)皮下免疫療法
(2)舌下免疫療法
の2つがあります。
ただ、アレルギーの原因物質を体に投与するわけですから、まれに注射した部位の腫れや、ひどい人ではぜんそく発作のような副作用を起こされる患者さんもいらっしゃいます。
舌下免疫療法でも、こうした発作は起こる危険性があります。
そのため医療機関では、どちらの療法においても投与後、しばらく院内で反応を見ます。
それを確認したうえで薬の量を調整するので、それほど副作用を心配する必要はありません。
ちなみに、安全性の面では、皮下免疫療法よりも舌下免疫療法のほうが高いといわれています。
「手術」でアレルギー性鼻炎を治す場合も
薬物療法や減感作療法をしてもあまり効果が見られなかったり、もしくは、ほかの疾患があったりして、こうした治療ができない場合、次のような手術を行う場合もあります。
(1)レーザーで鼻の粘膜を焼く
(2)下鼻甲介(鼻腔内にある出っ張った部分。アレルギー性の炎症がもっとも起こりやすい場所)の粘膜や骨の一部を切除する
(3)鼻の迷走神経のおおもとである後鼻神経を切断する
(1)と(2)は鼻腔内の空気の通り道を広くするため鼻づまりの解消に、(3)は鼻の迷走神経を切断することで、くしゃみや鼻水の解消に、それぞれ効果があるといわれています。
ただ、こうした手術を単独で行っても、再発する確率は高いといわれています。
ですから、アレルギー性鼻炎の治療において、手術はあまりおすすめしません。
ただし、耳鼻科の先生方によると、(1)のレーザーによる手術と減感作療法を並行して行う治療は、かなり高い確率で再発を防げるといいます。
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◆杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)
1967年8月13日生まれ。杉原家は江戸時代から続く医師の家系で、17代目の医師になるものとして生を受けるが、レールの敷かれた人生に反発し、高校時代は文系を選択。部活のスキーの大会で肩関節を脱臼し手術を受けたことで、医師の仕事のすばらしさに目覚め医師を志す。94年、杏林大学医学部を卒業。2001年、同大学院修了。東京都立府中病院(現・東京都立多摩総合医療センター)呼吸器科勤務を経て現職。自らも喘息を患った経験があり、教科書通りの医療では良くならない患者がいることに疑問をもち、上気道と下気道の炎症に着目した独自の視点で喘息診療を行っている。仁友クリニックを設立し、喘息治療で功績を残した杉原仁彦は祖父にあたる。
※この記事は書籍『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。