2019年の年末。シャオミ、そしてシャープから炊飯器が発表されました。その炊飯器は、実に今ドキ。グローバルな土台に、ローカルなニーズを見事に押し込んだモデルでした。その中で、シャープの「KS-HF05B」(3合炊き)モデルをチェックすることができました。チェックした感想は、「やるなぁ」という感じ。レポートします。
商品=「グローバル+ローカル」が今の公式
今ドキの商品は、「グローバル+ローカル」の組み合わせで作られます。
ここでいう「グローバル」というのは、その商品の基幹部分のこと。炊飯器なら、美味く炊くための機能ということです。炊飯器が世に出て、かなりの時間が経った今、美味しく炊くための技術は、ポピュラーな技術になっています。
要するに、この基幹部分は、一番安い生産地で作るのがお得、ということです。人件費もありますが、生産数が多い場合、原材料なども安く仕入れることができます。倉庫で棚積みにして保管料がかさむより、ちょっとお安く販売した方がもうかる、との判断です。中国の人口は日本の約10倍。となると10倍の量が必要です。人件費が安く、材料費が安く、10倍量をこなす最新設備でガンガン生産する。幾ら日本の技術陣が職人的だといっても、価格競争ではかなわない。このため、基幹部分はグローバル化させた方が得策なのです。
さて一方、「ローカル」というのは、国、エリアによって事情がちがうもののことです。例えば、炊飯器で美味く炊くために、究極の「内釜」が必要だとします。ところが中国では、そこまで美味しい炊飯器を求める人は少ないとします。すると、この部分は「ローカル」な話ですから、では、日本で作ってください、となるわけです。いわゆる商品の差別化は「ローカル」なのです。
テレビは、それで負けました。
平面テレビで、日本は中国に敗れました。それは、国内のパネル製造が、「グローバル」に負けたためです。シャープの「亀山工場」も、パナソニックの「尼崎工場」も品質は世界一ですが、いかんせん、「量」で負けました。中国の方は、国から補助金も出て、ガンガンと新鋭の生産設備を入れ、ガンガンと生産するわけですから、仕方ないですね。
そして、日本メーカーは、ローカルな部分、つまり高画質の「画像制御技術」を軸に、それが最も支持されやすい国内市場を守ろうとします。
しかし、テレビの高画質ニーズはもともと技術優先で、ユーザーニーズとしては、かなりマニアックです。こうして、国内メーカー品は、中国製より(素人目には)多少「画」がよいけれど高いよね、という構図になりました。
これに揺さぶりを掛けているのが、中国の「ハイセンス」です。東芝のテレビ事業を買い取った同社は、東芝の画像制御技術を搭載したモデルを市場に出しました。画質もよく、低価格。一般的なユーザー認知はまだ少ないものの、かなり売れています。
今、日本メーカーのテレビ事業撤退がささやかれていますが、中国は会社を「買う」ことにより、ローカルニーズに対応して来たわけです。
日本に最後に残るのは、あとは「ブランド力」。ただ、これがなかなか心許ないのが現状です。
今ドキの「炊飯器ヒエラルキー」
今、炊飯器は、4つのゾーンに分かれています。
技術的にいうと、安い方から「ヒーター+マイコン制御」「IH」「IH+圧力」「IH+圧力+特殊技術」です。「IH+圧力+特殊技術」の特殊技術は、多くの場合「特殊素材の内釜」で、いわゆる高級炊飯器です。
価格は、5合炊きで「ヒーター+マイコン制御」が〜2万円(税抜)。「IH」が2〜3.5万円、「IH+圧力」が3〜5万円。「IH+圧力+特殊技術」が、5万円以上という感じです。
まず、この「ヒーター+マイコン制御」が揺れ動いています。
シャオミの炊飯器は、「IH」で9999円(税抜)ですから、要するに「今までの半額で発売した」と考えてもらえればイイです。これは、冒頭の「グローバル」のなせる技です。これは致し方のないことです。
しかし、この価格帯が「IH」になると、日本メーカーは本当に大変です。
シャープ「KS-HF05B」(3合炊き)
それはさておき、シャープの「KS-HF05B」(3合炊き)です。「IH」で2~3万円前後ですから、先ほどのヒエラルキーでは「型破り」とはいえません。
しかし、注目すべき点が2つあります。
1つめは、「PLAINLYシリーズ」という、若者向けのキッチン家電シリーズの1つであること。昔と違い、今の若者の自炊はある意味、優雅なところがあります。それは、インテリア性に凝った部屋造りをすることです。モノが目立つ部屋でなく、居心地がイイことが優先です。このため、必要家電でもその部屋に溶け込むことが重要です。このため、いかにも炊飯器らしいデザインでない方が好まれます。
2つめは、火加減のプロデュースを、元パナソニックの下澤理如氏に任せたことです。これには吃驚しました。たしかに、これまでのシャープの炊飯器は、あまり褒められるモデルはなかったですが、元ライバルメーカーのキーマンに、「ローカル」の最大の特徴である「美味しさ」を預けたわけですから、すごい開き直りです。
匠の火加減
KS-HF05B
3合でも1合でも美味しい!
さて、山形県産の「つや姫」を「KS-HF05B」で炊いてみました。
正直、吃驚しました、実に丁度良く炊けています。味もそうですが、「ふつう(標準)」で炊いたときの食感が、やわらかくなく、かたくもなく、実にちょうどイイ。
3合、2合、1合と合数を変化させても、その評価は変わりませんでした。なかなかスゴいです。この価格だとちょっともったいない感じさえしました。
残念なのは、フタ開閉スイッチの位置。
では、もう1つの魅力である「デザイン」はどうでしょうか。
使ってみて、ダメ出ししたくなるのは、本体側面に付いたフタの「開閉スイッチ」です。椅子に座って開けることを前提にしているのでしょうか。しかしその場合でも、炊飯器は「高さ」がありますから、ご飯をよそうときには、立たなければならないでしょう。ここはかなりの疑問です。
あと、内部電源を全く持っていません。このため、電源ケーブルを抜いたら、タイマークロックも消えます。ただこちらは、原因は「コスト」でしょう。理解はできます。
3万円以下の炊飯器の戦いがアツい!
シャープの「KS-HF05B」は、2万円よりちょっと高いモデルですが、推奨に値するモデルだと考えています。
そして2020年、シャープ同様に、パナソニックのDNAで美味しさを導入した、シャオミの炊飯器の市場導入が始まります。
それに対し、日本メーカーの象印は、シャープと同様のデザインキッチン家電シリーズ「STAN.(スタン)」の炊飯器に、ホワイトモデルを入れるなど強化しています。タイガーは、おかずも同時にこしらえることができる、3合モデルの強化を図っています。
数量がでる価格帯ですからね。特に象印とタイガーは、炊飯器が占めるウェイトは低くありませんから、正念場ともいえます。2020年は、3万円以下の炊飯器の熱い戦いから幕が開くようです。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。