ストレス社会に生きる現代人は、便秘や胸やけ、胃もたれなどに悩む人が少なくありません。医療機関で検査を受けても消化器には異常がなく、対症療法的に便秘薬や胃薬を飲み続けるケースが多いようです。統合医療「クリニック徳」院長の高橋徳先生によると、「慢性的な疾患や症状に対しては、西洋医学より東洋医学のほうが得意」とのこと。アメリカの大学で鍼灸を科学的に研究した高橋先生に、消化器のトラブルに効くツボと、本当に効く押し方を教えていただきました。
【解説】高橋徳(統合医療クリニック徳院長・ウイスコンシン医科大学名誉教授)
解説者のプロフィール
1977年、神戸大学医学部卒業。関西の病院で消化器外科を専攻した後、1988年に渡米。ミシガン大学助手、デューク大学教授を経て、2008年よりウイスコンシン医科大学教授、2018年に名誉教授。米国時代の主な研究テーマは「鍼の作用機序」と「オキシトシンの生理作用」。2016年、名古屋市に「クリニック徳」を開業。主な著書に『8つのツボで30の病気を治す本』(マキノ出版・2017)、『人のために祈ると超健康になる』(マキノ出版・2018)。
▼クリニック徳(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
便秘が及ぼす悪影響は腸だけではない
慢性的な便秘は、日本人に増えている大腸ガンの原因の1つともいわれています。便秘によって腸内にふえた悪玉菌が発ガン物質をつくり出し、ガンのリスクを引き上げるのです。
便秘によって腸内環境が悪化すれば、免疫力が低下したり、肌の状態が悪くなったり、さまざまな悪影響が現れます。便秘解消のために、下剤を常用する人がいますが、これもよくありません。使い続けるうちに、下剤なしでは排便できない「下剤依存症」になるおそれがあります。
便秘や胃腸障害に効くツボは?
自律神経を整える「足の三里」
便秘の解消には、足の三里(あしのさんり)への刺激が最適です。
足の三里は、古来、胃腸疾患によく効くツボとして知られてきました。私自身も、ラット(実験用の大型ネズミ)を使った実験で、足の三里に鍼を打つと、胃の働きが高まることを確認しています。
このツボを刺激すると、皮膚や筋肉の知覚神経を介して脳の延髄に伝わり、自律神経のバランスが整うことがわかってきました。
自律神経とは、意志とは無関係に、血管や内臓、ホルモン分泌などをコントロールしている神経です。心身を活動的にする交感神経は主に昼に優位となり、心身を休息させる副交感神経は主に夜、優位に働きます。アクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)を適宜使い分けながら、体の状態を保っているのです。
緊張すると食欲がなくなりますが、これは、消化器の動きをよくする副交感神経の働きが低下し、交感神経が優位になっているためです。通常は、緊張が解ければ食欲は戻ります。しかし、ストレス社会に生きる現代人は交感神経が優位になりがちなため、慢性的に副交感神経が働かず、消化器の不調に悩むかたが多くなっているのでしょう。
足の三里を押すと、交感神経と副交感神経のバランスが整い、胃腸の機能が正常化します。腸のぜん動運動(便を肛門のほうへ送り出す動き)が回復し、便秘が改善するでしょう。
さらに、足の三里への刺激が中脳に達すると、鎮痛作用のあるオピオイドの分泌が、視床下部では、抗ストレス作用のあるオキシトシンの分泌が促されます。これらの総合的な作用によって、足の三里は消化器のみならず、多くの健康効果をもたらすと考えられるのです。
足の三里の見つけ方
足の三里は、ひざの外側の下方にあります。ひざのお皿の下に、人差し指の端を当てて、指の横幅4本分下がった辺りを押してみてください。押したときズーンと響くところが、足の三里のツボです。反対側の足の三里も、同様に探します。
足の三里の押し方
皮膚面に対して垂直に、まっすぐ下へ押します。指圧には、親指や人差し指、中指などを使います。ご自分のやりやすい指を使ってください。
指を足の三里に当てたら、真下にグーッと押し込みます。「痛気持ちいい」という程度の強さで押しましょう。「痛い!」と感じるのは強すぎです。
「1、2、3」と数えながら、3秒キープします。これを4~5回くり返して1セット。左右の足に、朝晩1セットずつ行いましょう。
ガス腹に効くマッサージも併用しよう
足の三里のツボ押しに加え、おなかのマッサージもお勧めです。便秘症のかたは、おなかにガスがたまって、張りや膨満感に悩まされていることがあります。マッサージをするとガスが抜け、腸の動きが活発になります。時計回りに円を描くように、おなかを1分ほどマッサージしましょう。
胸やけや胃の不調、げっぷにも有効
さらに近年、便秘意外の胃腸障害として、「機能性ディスペプシア」や「過敏性大腸炎」に悩む患者さんが増えています。
機能性ディスペプシアとは、胃や食道に明らかな異常はないのに、慢性的に胃もたれや胃痛、胸やけ、げっぷなどが起こる病気です。一時期、「逆流性食道炎」という病気が雑誌などでよく取り上げられましたが、これも食道に異常がなければ、機能性ディスペプシアになります。敏性大腸炎は、大腸に異常がないにもかかわらず、腹痛や便秘、腹部膨満感(ガス腹)などが続く病気です。
どちらもストレスによって起こることが多い胃腸障害で、足の三里へのツボ刺激が有効であることがわかっています。
なお、本稿は『8つのツボで30の病気を治す本』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。