「ペットボトルのふたが開けられない」「朝、起床後、手を握ったり開いたりする動作がしづらい」といった経験、ありませんか?手の指のこわばりは、関節リウマチの代表的な初期症状です。痛みを放置したり、病院に行くのをためらったりしないでください。関節リウマチは、治せる病気です。痛み・腫れ・こわばりなどを抑え、関節の変形を防ぎ、薬なしで生活することもできるのです。重要なのは、早期診断と早期治療。その一歩を踏み出すために、この記事を存分に活用してください。【解説】湯川宗之助(湯川リウマチ内科クリニック院長)
著者のプロフィール
湯川宗之助(ゆかわ・そうのすけ)
湯川リウマチ内科クリニック院長。父、兄ともにリウマチの専門医というリウマチ医一家に生まれる。2000年、東京医科大学医学部医学科卒業。研修医時代、20代の女性がリウマチで手が変形した姿を見たのがきっかけで、当時は難病と考えられていたリウマチ・膠原病の専門医を志す。東京医科大学病院第三内科(リウマチ・膠原病科)、産業医科大学医学部第一内科学講座を経て、2015年に湯川リウマチ内科クリニック院長就任。親子2代で50年以上にわたりリウマチの研究を続け、患者数や症例数は日本一を誇る。日本リウマチ学会専門医・評議員。
▼湯川リウマチ内科クリニック(公式サイト)
▼リウマチ治療について(Dr.湯川宗之助)
▼専門分野と研究論文
▼学会発表
本稿は『リウマチは治せる!日本一の専門医が教える「特効ストレッチ&最新治療」』(KADOKAWA)から一部を抜粋して掲載しています。
リウマチの初期症状
まず、簡単な質問をさせてください。
▼ペットボトルのふたが開けられない
▼起床後、手を握ったり開いたりする動作がしづらい
こんな経験、ありませんか?
これらは、「たまたまできなかっただけ」と軽く考えられがちな現象なのですが、何度か同じことがあったなら、決して見過ごしてはいけません。実を言うと、こうした手の指のこわばりは、関節リウマチでは特に代表的な初期症状なのです。
一方、すでに関節リウマチの治療を受け始めている人も、当然いらっしゃることでしょう。そんなあなたには、また別の質問をさせてください。
▼主治医からは、治療目標についてどのように言われていますか?
この問いに対し、答えにつまってしまうかたは要注意です。治療目標の詳細については以降に譲りますが、医師と患者さんの間で治療目標が共有されていなければ、時間ばかりが無駄に過ぎてしまう可能性が高くなります。
その結果、「治せるはずのリウマチ」を適切に治療するタイミングを逸してしまい、「一生リウマチに悩まされる」可能性もあるのです。
ですから、上記の質問に当てはまったかたも、この質問にドキッとしたかたも、これからお話ししていく内容をもとに、最適な対策を取るようにしていただきたいと思います。それこそが、「リウマチは治せる!」というチャンスを手にすることになります。
寛解を維持することも可能に
申し遅れましたが、私は、東京都にあるリウマチ専門クリニックで院長を務めている内科医・リウマチ専門医です。そもそもは、父・兄ともにリウマチ専門医という家で育ち、親子でリウマチ研究に取り組んだ期間は50年以上にわたります。
現在では、毎日およそ100人のリウマチ患者さんを診察・治療しています。ひと月に通院されるリウマチ患者さんの数は、新患のかた100人を含めて、合計でおよそ2000人。年間では2万5000人、この5年間ではのべ10万人超の患者さんたちと接してきました。これは、1クリニックの1医師としての数字です。
総合病院や大学病院では、週2日程度しかリウマチ外来を行っておらず、しかも外来担当医は3〜10名はいるので、これほど多くの患者さんと接することはありません。そのため、日本で最多の症例を持っていると自負しており、それだけに多くの患者さんたちに貢献するべく、今も絶えず努力を続けています。こうした経験などから、確かに言えることがあります。
早期治療が大切
今、関節リウマチの世界は、パラダイムシフトを迎えています。
パラダイムシフトとは、従来の考え方や価値観が180度変わることで、「大きな転換」を意味します。つまり、関節リウマチに関わる診断基準・治療(薬)・客観的な評価項目などは、私が研修医だった20年前のそれらとは、比べものにならないほど劇的に変化しているのです。
早い段階で確実な診断をし、速やかに治療を始めれば、痛み・腫れ・こわばりなどを和らげるだけではなく、関節リウマチという病気を抑えて症状が治まった「寛解」の状態を維持することもできるようになりました。
不治の病ではない
さらに、薬がなくても寛解を維持できる「完治」の状態になることも可能になったのです。にもかかわらず、私のクリニックを初めて訪れた患者さんと話をしていると、”関節リウマチは不治の病”と誤解しているかたが、いまだに数多くいらっしゃるという現実があります。
約半数の患者が寛解へ
それはおそらく、私をはじめとしたリウマチ専門医が、患者さんたちの立場をよく考えた「わかりやすい発信」をしてこなかったためでしょう。しかし、このままではいけません。なるべく早い段階での治療がきわめて有効なだけに、皆さんが”何もせずにただ様子をみている”時間を過ごしてしまうなど、非常にもったいないことです。こうした思いから、現時点での関節リウマチへの正しい理解や知識をできるだけ多くのかたがたに持っていただきたいと考えます。
私の知る限り、これまでにあった関節リウマチの書籍のほとんどは、専門書や医学書、研究書の類いでした。なかには、一般向けに作られたリウマチ本もありましたが、患者さんの立場からすると、やはり内容を理解するのは困難なものばかりだったと感じています。
そこで、誰にでもわかりやすい表現を心がけつつ、皆さんの不安や悩みの解消に役立つ説明をしていきます。と同時に、最新の話もご紹介します。
21世紀から続々登場したリウマチの薬=抗リウマチ薬によって根本治療が可能になり、約半数もの患者さんが寛解に到達できること。昔からある運動療法よりも安全で有益なストレッチを初公開すること。最近では、「抗リウマチ薬が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺炎の重症化を抑制する」と期待され、すでに世界中で治験が始まっています。これらの点についても、今後お話ししていくつもりです。
100万人が悩むメジャーな病気
関節リウマチは、ガンなどの”メジャーな病気”に比べると、”マイナーな病気”と思われがちですが、そんなことはありません。これも、前述したような誤解のひとつですが、日本での有病率(人口に対して疾病を患っている割合)は約1%。免疫(体に本来備わっている「自分の体を異物から守るシステム」)に関わる病気では群を抜いて高い有病率で、単純計算では約100万人が悩んでいる可能性のある病気です。
また、2016年の国民生活基礎調査によると、「手足の関節の痛み」が自覚症状のランキングで女性では3位、男性でも5位に上がっています。その調査結果をもとにすると、潜在的な”リウマチ予備軍”は700万人にものぼると推察されます。関節リウマチは、いつ誰がかかってもおかしくない”意外とメジャーな病気”なのです。
痛みを放置しないで
関節リウマチを甘くみて、痛みを放置したり、病院に行くのをためらったりしないでください。「関節リウマチを発症したかたについてレントゲン検査を半年ごとに行うと、2年以内に30%の人で関節破壊が確認された」というデータもあるのです。
大切なことなので、もう一度言います。関節リウマチは、治せる病気です。痛み・腫れ・こわばりなどを抑え、関節の変形を防ぎ、薬なしで生活することもできるのです。重要なのは、早期診断と早期治療──。その一歩を踏み出すために、この記事を存分に活用してください。
リウマチQ&A(1)リウマチってどんな病気?
免疫機能の異常によって起こる病気です。
「リウマチ」とは運動器(関節・筋肉・腱・靭帯など)の病気の総称で、正式な病名は「関節リウマチ」です。関節リウマチの原因については、いまだ決定的な答えは出ていません。
しかし、主な原因は、体に備わっている「自分の体を異物から守るシステム」=「免疫機能」の異常とされています。本来は、この免疫機能が備わっているおかげで、体内に細菌やウイルスが入ってきたとしても、それらを攻撃・排除して病気にならないメカニズムが働いています。
ところが、自分の体の中にある細胞や成分を“異物”と誤って認識するとそれらに対する異常な免疫反応が起こり、体内の細胞や成分を攻撃・排除するメカニズムを働かせてしまうのです。こうして引き起こされる病気は「自己免疫疾患」と呼ばれ、関節リウマチは代表的な病気のひとつです。
リウマチQ&A(2)リウマチって、高齢者の病気?
まったく違います。発症のピークは40代です。
関節リウマチは、症状の出やすい部位や痛みという共通点があることから、変形性関節症や神経痛と混同されやすく、年配者に多いイメージがあるようです。
しかし、実際はまったく違います。30〜50代で発症することが多く、ピークは40代です(下のグラフを参照)。働き盛り、子育ての真っ最中という期間に起こりやすく、忙しさから病院の受診を先延ばしにしないよう注意が必要です。
リウマチと診断された年齢
リウマチQ&A(3)どんな症状が現れるの?
関節の痛み・腫れ・こわばりや、手指の変形も起こります。
関節リウマチは、動かせる関節(可動関節)のほとんどで起こる可能性がありますが、とりわけ起こりやすいのは、手や足にある中小の関節。特に頻発するのは、手の指や手首などの「手の関節」です。なかでも、手の指の第2関節(PIP関節)・第3関節(MCP関節)から発症するケースが非常に多いと言えます。
ただし、肩関節・ひじ関節・股関節・ひざ関節・足関節(足首)・背骨の首部分(頸椎)の関節・顎関節などがおかされることも少なくありません。発症したご本人が自覚する症状としては、まず、朝の関節の痛み・腫れ・こわばり・動かしづらさなどが挙げられます。
病気が進行してしまうと、骨や関節の変形・破壊なども起こってきます。
リウマチQ&A(4)リウマチを放っておくと、どうなるの?
関節破壊の確率が、かなり高まってしまいます。
関節リウマチは、放っておいて治る病気ではありません。ですから、同じような質問として、「病院に行かなくても大丈夫?」と聞かれることもあるのですが、やはり「大丈夫ではありません」と答えるしかありません。放置していれば、病変は段階を追って進行してしまいます。
関節リウマチは通常、関節全体を覆っている袋状の組織(関節包)の内側にある「滑膜」という組織に炎症が起こることから始まります。その後の進行について、かつては“ゆっくり進行する”と考えられ、関節破壊ともなれば“発症から10年以上が経過してから発生する”と考えられていました。
しかし最近では、この考え方は改められています。放置していれば、炎症による腫れや痛みは治まらず、関節・骨の破壊が始まってしまい、変形が起こっていきます。また、仮に関節の腫れ・痛みがひどくなくても、関節の内部では炎症が続き、関節破壊が進行していることもあるだけに、十分な注意が必要です。
リウマチQ&A(5)治すために重要なことは?
早期の診断・治療で発症初期の急速な悪化を防ぐことです。
とにかく重要なのは、早期診断と早期治療です。
下のグラフをご覧ください。従来は、関節リウマチによる関節破壊は10年以上をかけてゆっくりと進むと考えられていましたが、実際にはもっと速いスピードで起こっています。「関節リウマチを発症したかたについてレントゲン検査を半年ごとに行うと、2年以内に30%の人で関節破壊が確認された」というデータが発表されているのです。しかも、特に発症から6カ月以内という短期間で、関節が壊される割合が急上昇しています。
ですから、早期の診断と治療によって、こうした急速な悪化をいかに回避できるかが、関節リウマチを克服するカギとなります。将来の“見た目の変形”を抑えるためにも、薬を必要としない完治の状態に進むためにも、きわめて大切なことといえるのです。
関節破壊の進行スピード
リウマチQ&A(6)リウマチの治療法は?痛くない?
採血のときにチクッとするぐらいで、痛くありません。
関節リウマチの基本的な治療法には、以下の3つがあります。
- 薬で炎症や痛みを抑えたり、関節の破壊を防ぐ「薬物療法」
- 関節を適度に動かし、機能を維持する「運動(リハビリ)療法」
- 失われた機能を手術によって回復させる「手術療法」
これらのうち、治療で中心的な役割を担うのは、主に抗リウマチ薬が用いられる薬物療法です。
ただし、その薬物療法を始める前に、「関節リウマチであるのか否か」を診断するためにも血液検査が欠かせません。その時点で採血による痛みがあるかもしれませんが、これは多くの人が経験している程度の痛みでしょう。
実際に薬物治療に入ると、「錠剤」「点滴」「皮下注射」のいずれかのタイプの抗リウマチ薬を取り入れることになるはずです。この場合も痛みを感じるのは、点滴や皮下注射の針を刺すときにチクッとするぐらいです。しかし、点滴や皮下注射で使われる針は、採血の針よりも細い針なので、薬物治療に伴う痛みとして“最大の痛み”となるのは、最初の採血のときの痛みということになります。
ですから、関節リウマチによる関節痛が現れた人なら、「治療による痛み」よりもずっと、「病気による痛み」のほうが強いことになります。診療の際、医師が触診をすることもありますが、少し触る程度で強く押すことはありませんので、心配は無用です。
なお、本稿は『リウマチは治せる!日本一の専門医が教える「特効ストレッチ&最新治療」』(KADOKAWA)から一部を抜粋して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。