関節リウマチは、激しい症状がいきなり現れる病気ではありません。初期のうちは手の指のこわばりのような、見過ごされがちな症状が現れることが多いです。また、男性に比べて女性の方が多い病気です。【解説】湯川宗之助(湯川リウマチ内科クリニック院長)
著者のプロフィール
湯川宗之助(ゆかわ・そうのすけ)
湯川リウマチ内科クリニック院長。父、兄ともにリウマチの専門医というリウマチ医一家に生まれる。2000年、東京医科大学医学部医学科卒業。研修医時代、20代の女性がリウマチで手が変形した姿を見たのがきっかけで、当時は難病と考えられていたリウマチ・膠原病の専門医を志す。東京医科大学病院第三内科(リウマチ・膠原病科)、産業医科大学医学部第一内科学講座を経て、2015年に湯川リウマチ内科クリニック院長就任。親子2代で50年以上にわたりリウマチの研究を続け、患者数や症例数は日本一を誇る。日本リウマチ学会専門医・評議員。
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本稿は『リウマチは治せる!日本一の専門医が教える「特効ストレッチ&最新治療」』(KADOKAWA)から一部を抜粋して掲載しています。
初期に現れるサイン
関節リウマチは、激しい症状がいきなり現れる病気ではありません。
初期のうちは、「単に疲れているだけ」とやり過ごしがちな症状が現れることが多いのです。それだけに、まずは「初期症状を見抜くポイント」を、できるだけ意識していただきたいと思います。その点、典型的な初期症状、つまり「ペットボトルのふたが開けられない」「起床時に手がこわばって動かしづらい」といった変化は、最も気づきやすいものと言えるでしょう。
これらは、手の指という小さな関節に炎症が起こっているサインです。朝に、こわばりや腫れをよく感じるのは、それほど難しい理由ではありません。眠っている間は基本的に同じ体勢でいるため、リウマチ初期の原因となっている炎症物質や関節液が滞留してしまうからです。
この変化は、手の指だけでなく、足の指でもよく起こり、特に手の指の第2関節や第3関節に症状が現れます。ただ、こわばりや腫れの感覚は、体を動かしているうちに消えていきます。血液の流れがよくなり、炎症物質や関節液も「とどまった状態」から散らされるように動くからです。
だからこそ、見過ごされることが多いわけです。
ペットボトルのふたが開けづらいと感じるのも、同じ理由から、朝〜午前中の時間帯であることが多いでしょう。ですから仮に、朝〜午前中だけに限らず、昼や夜にも「ペットボトルのふたを開けづらくなった」という場合には、すでに初期の段階を過ぎている可能性があります。
いずれにしても、「おかしいな」と感じたら、疲れや加齢のせいと決めつけてそのままにしてはいけません。体からのサインを無視しないようにしてください。
こんなにあった意外な初期症状
「ペットボトルのふたが開けられない」「起床時に手がこわばって動かしづらい」といった変化をはじめ、初期段階の関節リウマチの”サイン”になりやすいものがいくつかあります。次のリストに当てはまるものがないかチェックしてみましょう。なかには、意外に思われるものもあるかもしれませんが、実際に患者さんからの声も多い例ばかりです。
直近で「転んだりぶつけたりして関節を痛めた」などの「はっきりした原因」がないのに、1つでも当てはまる項目があるなら、初期のリウマチかもしれません。「疲れているだけかもしれないし」「この程度の不調でお医者さんに診てもらってもいいのかしら」などと、遠慮する必要はまったくありません。「間違っていたらどうしよう」と、心配することもありません。
体の異常を感じたら、ためらうことなく診察を受け、”病気の進行を許す時間”をなくすように考えてください。
初期症状が分かるチェックリスト
以下に思い当たる症状はないでしょうか?1つでも当てはまるものがあれば、初期のリウマチの可能性があります。
□ ペットボトルのふたが開けられない
□ 起床時に手がこわばって動かしづらい
□ 体がだるい
□ 微熱が続く
□ 食欲がない
□ 体重の減少
□ 貧血気味
□ 朝食を作るとき、動作に違和感がある
□ 歯ブラシが使いにくい
□ お箸を上手に使えない
□ ドアノブが回しにくい
□ 家のカギが開けにくい
□ 靴ひもが結びにくい
□ ハサミが使いづらい
□ ホチキスが使いづらい
□ パソコン入力がしづらい
□ 電車のつり革を持つ手に、違和感がある
□ パジャマのボタンが外しにくい
□ TVのリモコンが押しにくい
□ 歩きづらくなった
□ 今まではスッと入った指輪が、関節にひっかかる
関節リウマチ発症のメカニズム
女性の患者数は、男性の5倍
調査結果や報告によって多少の違いはありますが、関節リウマチの患者数は、男性1に対して、女性は4〜5と言われています。つまり、関節リウマチは、男性に比べて女性は4〜5倍も多い病気なのです。
これは、関節リウマチだけに限られたことではなく、自己免疫疾患の病気全般に当てはまることです。女性に多い理由としては、「女性ホルモンと関係している」とする説が有力で、具体的にはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロラクチン(乳腺刺激ホルモン)が関与しているとされています。
なぜなら、これらの女性ホルモンは、自己抗体(自分の体の組織・細胞・成分を間違って攻撃してしまう物質)の働きや、免疫反応を促す物質(サイトカインなど)を活性化させやすく、それだけに自己免疫反応に異常をもたらしうるからです。
免疫機能の異常、女性ホルモンが病気の後押し
ただし、女性ホルモンが直接的に病気を引き起こすわけではありません。最大の原因は、あくまでも免疫機能の異常であり、それに加えて女性ホルモンが”病気の後押し”をしていると考えるべきです。実際、女性では月経のある年代で発症しやすいことがわかります。
また、初経の早い女性では、血液検査でわかるリウマチ因子(RF/リウマトイド因子)の数値が20以上の陽性になって発症する率が、高くなるという研究報告があります。経口避妊薬(ピル)を飲んでいる女性では、体がエストロゲンの分泌・活動を抑える方向に働くことが関係しているのではないかと考えられ、結果として関節リウマチの発症率が低下していたという報告もみられます。
さらに、関節リウマチの患者さんが、妊娠・出産・授乳の過程を経るなかで、関節リウマチの症状に以下のような変化が起こりやすいこともよく知られています。
▼妊娠中→関節リウマチの症状が軽くなる
男性の精子や、胎児の細胞を、異物と認識して攻撃・排除してはいけないため、免疫機能が抑えられる
▼出産後→関節リウマチの症状が悪化
抑えられていた免疫機能が戻るが、それが急激に行われると、反動で免疫の働きが一気に高まる
▼授乳中→関節リウマチの症状が悪化
乳腺の発達や、母乳の分泌を促進するプロラクチンの働きが高まる
こうしたことから、女性ホルモンと関節リウマチには相関関係があるはずですが、実際には自力で女性ホルモンの分泌量を調節することなどできません。ひとことで言えば、「防ぎようのないもの」で、それは私もよくわかっています。ですから現実的には、知識として蓄えておき、「該当する期間にはいっそう注意する」という意識を持てば十分だと思います。
また女性ホルモンのほかに、リウマチの発症に関わるものとして、ストレスやタバコが挙げられます。ストレスは女性ホルモン同様に完全には防げないものですが、うまく解消することを心がけましょう。タバコについては、そのリスクを正しく知ることで、止めるという決断をしてほしいと思います。
関節の腫れや痛みが起こる原因とは?
さて、ここで一度、これまでの内容を簡単におさらいしてみましょう。
まず、関節リウマチには、意外とも思える初期症状があるということ。そして原因としては、主に免疫機能の異常があり、その「異常な自己免疫反応」がベースになって症状が起こり、女性ホルモンなどの要因も複雑に絡み合って発病するというものでした。
そこでここからは、関節リウマチという病気によって、関節の中でどのような変化が発生するのかみていきましょう。
滑膜の炎症が腫れ・こわばり・痛みの「引き金」となる
すでにお話ししたとおり、関節リウマチは通常、関節全体を覆っている袋状の組織(関節包)の内側にある「滑膜」という組織に炎症が起こることから始まります。つまり、自らを「異物」と誤認して攻撃してしまうという、異常な自己免疫反応が滑膜に起こり、炎症が発生するということです。
この滑膜の炎症が、関節リウマチによる腫れ・こわばり・痛み・指の変形など、すべての症状の「引き金」となるわけです。滑膜という組織の名は、一般にはあまり知られていないかもしれませんね。しかし、この滑膜は、関節の働きにおいて重要な役割を果たしています。
下にある図を見てください。
関節の骨と骨の端の表面部分は、弾力性のある「軟骨」で覆われています。そして、「クッションのように衝撃や負荷を緩和する」「骨どうしが直接ぶつかるのを防ぐ」「関節を滑らかに動かす」などの働きをしています。そうした軟骨の働きを見事にサポートしているのが、滑膜です。
非常に薄い膜でありながら、関節腔(関節内のスペース)に関節液を分泌したり吸収したりして、これも”水枕のようなクッション”になり、軟骨どうしの”潤滑油”の役割も果たし、軟骨自体への栄養補給も行っていることになります。ところが、滑膜に炎症が起きてしまえば、当然ながら正常な機能をまっとうできなくなります。
そして、炎症によって滑膜は充血して腫れ上がり、1mm未満だった厚さは何倍にもふくれ上がり、関節腔には関節液がたまり続けます。こうして、関節リウマチ特有の腫れが起きるのです。
「正常な関節」と「リウマチの関節」の違い
また、炎症性サイトカインやプロスタグランジンという発痛物質も、たくさん作られるようになります。関節液を通じて、これらの物質が滑膜にある神経を繰り返し刺激することで、痛みも発生します。そのうえ、こうした滑膜の炎症が自然とよくなることは非常に少なく、むしろ滑膜が腫れてむくんでいることが神経を圧迫することになるため、さらに痛みが増していくのです。
なお、本稿は『リウマチは治せる!日本一の専門医が教える「特効ストレッチ&最新治療」』(KADOKAWA)から一部を抜粋して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(1)「リウマチとは」はこちら