HSPの過敏性は、五感や人の感情、雰囲気だけでなく、電磁波や放射線、気圧、光線、金属、化学製品、薬剤などさまざまです。一度、過敏症を発症してしまうと治すのはとても大変です。刺激の発生を予防し、体内から放出して免疫力をあげる努力が必要です。本稿は『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。
健康や食事について敏感すぎる
敏感すぎる人の中には、電子機器が壊れやすく、電磁波に過敏に反応してしまう人がいます。
人間を含めたほとんどの生命体の細胞には、磁性を帯びた微少な結晶(磁性体)があり、人間では鼻腔後壁や松果体が磁性器官として知られています。
HSPの過敏性は、五感や体性感覚、人の感情、場の雰囲気だけでなく、電磁波や放射線、気圧、光線、溶剤、金属、殺虫剤、石油化学製品、喫煙、砂糖、グルテン、化学調味料、薬剤、農薬などさまざまです。
生物学的負荷(カビやホコリ、花粉など)や化学的負荷(貴金属や無機物、有機物など)、物理的負荷(熱や光、気圧など)、心理的負荷(対人ストレスや精神的悩みなど)が日常的にかかっている人が何らかの大きなストレスに直面した時、生体の適応能力が限界に達し、突然にアレルギー反応や化学物質過敏症、電磁波過敏症などを発症します。
一度、過敏症を発症してしまうと治すのはとても大変です。刺激からできるだけ距離をとり、刺激の発生を予防し、体内から放出して免疫力をあげる努力をし続けない限り改善は望めません。
case食事をしたあと、体がだるくなったり、具合が悪くなる
胃腸脆弱のHSPの中には、食事中や食後に腹痛・下痢・嘔吐などの症状や、眠気・だるさ・湿疹などが出る人がいます。また、薬や食品添加物、砂糖、肉類、白米、小麦などとの相性が悪く、腹部症状の出る人もいます。
「食事を振り返り、体調不良の原因を探る。」
脳と腸はお互いに密接に影響を及ぼし合っており、過剰な心配や慢性的な不安は胃に、細かいことへの執着は小腸に、必要のない人や物・古い考えの影響などは大腸に関係しているようです。
また、胃腸に慢性的なトラブルを抱えている患者さんの多くに幼児期のトラウマが報告されています。
漢方医学によると胃腸機能が慢性的に低下している「脾虚」の病態では、食欲がない、食後に眠気やだるさがある、すぐに満腹になるなどの症状があり、
さらに、「気虚」の病態として、元気がない、気力がない、疲れやすい、だるいなどの抑うつの状態が見られることが少なくなく、これは胃腸で「気」を十分に作れないことによると考えられています。
食事中や食後に、胃腸症状や眠気、だるさなどが目立つ場合には、食事の内容を詳しく検討するとともに、ストレスによる慢性疲労状態がないかどうか日常生活を見直してみましょう。過食や糖類の過剰摂取も控えてみる必要があります。
セルフケアのコツ
・食事日記をつけ、体調を記入する
・日記を見返しながら、体調が悪くなる食品を見つけ出す
・体調不良になる食品の代替品を探しておく
case電磁波に敏感で気になって仕方がない
HSPは五感や超感覚、痛みなどの感覚に対してばかりではなく、食物や薬、化学物質、電磁波にも過敏性を示す人がいます。これらは思い込みや神経症などではなく、慢性疲労症候群の原因にもあげられています。
「電磁波で調子を崩すのは、電磁波過敏症だから。」
電磁波を感じると聞くと、「ちょっと怪しいのではないか?」と思われるかもしれません。けれども、飛びかう電磁波に反応したり、携帯電話を使うと激しい頭痛がしたりして体調を崩す人が存在します。
症状には、「電磁波過敏症」という名前までついているのです。これは2005年にWHOによって公式に認められた、電磁波に対するアレルギー反応の総称です。
原因不明の体調不良で困っている人の中に、電磁波の影響で静電気が体内にたまり、帯電による血管の収縮からくる血流障害や筋緊張、空中のちりや埃の吸引により一連の症状がもたらされる「帯電障害」の人がいます。
これらの主な症状としては、「ひどく体がだるい」「異常に疲れる」「頑固な冷え」「肩こり」「目の疲れや乾燥」などがあり、静電気を抜く「アーシング」(静電気デトックス)を行うと体が温まり、だるさがとれてラクになります。
体の静電気を抜く方法としては、「自然と触れ合う」「アースシートを使う」「建物をアーシングする」「風呂に入る」「水分を補給する」「気功ヨガを行う」などがあります。
セルフケアのコツ
・自宅の電子機器は極力OFFにする
・広い公園などで、素足で地面を歩く
・電磁波除去マットなどを使ってみる
case化学物質に敏感で、症状がよく出て困る
HSPには自然由来ではない、化学物質が含まれたものに強く反応してしまう人がいます。化粧品を肌につけると違和感や、食事中や食後に腹痛、下痢、嘔吐などの腹部症状や腰のくびれ部分と上部に痛みを感じることも。
「電磁波過敏症であったら、化学物質過敏症も疑う。」
敏感症とは、刺激に対する感受性が亢進し、普通では何の反応も示さない弱い刺激に対して異常に強い反応性を示すことです。
HSPは慢性の強いストレスにさらされた結果、ある時から急に感受性が高まって何にでも過敏に反応するようになったりします。
カップ麺やジャンクフード、化学調味料などは薬品の味がして受け付けず、薬は少量でも効きすぎて副作用が起きてしまったりします。
人混みに出かけたら倒れてしまい、愚痴や悪口を聞くと体調が悪くなるなど、日常生活が成り立たなくなってしまうのです。
過敏になった体を元どおりにしようと考えるよりは、新しく変化した体の特徴をよく知って付き合い方を学んでいくほうがよく、居住環境や食生活、対人関係などの調整を根本的に、徹底的に行っていくことをオススメします。
無理をしすぎたり、頑張りすぎたりしているとある日突然、過敏症となってしまい、体に強制的にストップがかかってしまうこともあり、注意が必要です。化学物質過敏症と電磁波過敏症は高率に合併します。
セルフケアのコツ
・食事日記をつけ、体調も記入する
・食事や肌につけるもので体調変化があるものを探る
・居住環境や食生活を根本的に変える
case寝つきが悪く、夜もなかなか眠れない
布団に入ってもなかなか眠れないというのは、HSPの多く方に共通している悩みです。睡眠が浅く、ささいな刺激で一瞬覚醒してしまうため、脳が休まることはなく、HSPが疲れやすい一因にもなっています。
「眠れなくても自分を責めてはいけません。」
慢性で難治性の頭痛や睡眠障害は、解離状態を伴うHSPの特徴的な症状です。子どもの頃から起こっており、頭痛のない日や熟睡できた夜はないなどの人もいます。
度重なるストレスと栄養摂取の不足が重なると、副腎から分泌されるホルモンであるアドレナリン(血糖上昇・血圧上昇・感覚麻痺にかかわる)やノルアドレナリン(脳の活性化に関与する)、コーチゾル(免疫の上昇などと関連する)の分泌が低下し、副腎疲労の状態がもたらされます。
症状としては、慢性疲労状態や睡眠障害、起床性低血圧、集中力低下、身体疼痛、浮腫などです。副交感神経が高まりすぎて、リンパ球系の免疫が過剰に働きアレルギー症状が出やすくなり、血管が拡張して、うっ血やのぼせたりします。
覚醒や意識がやや低下している「離人状態」では、意識が体から離れているので体は眠っていても意識は起きているために、睡眠剤は効果がなく、投薬量が増えてしまいます。
入浴して体を芯から温めるなど、リラックスすると寝つきがよくなるのでオススメです。
セルフケアのコツ
・アイマスクや耳栓をして音や光を遮断する
・寝る前に楽しいことを考えて、楽しい気分で寝る
・心地よいベッドなど寝る環境を整える
Plus+ 1マインドフルネスで「今、ここ」に集中する
HSPは自他の境界線が薄く、自分軸が弱いために他者に意識が分散し、自己に集中できない状態にあります。自分の「今、ここ」の感覚に意識を向ける「マインドフルネス」は、分散している意識を集中するのに大変役に立つ瞑想法です。
マインドフルネスは、「今、ここにいる自分を認識する」ための瞑想法です。感情が乱れていても、体調があまり良くなくても問題ありません。目的は現実のまま、ありのままの自分を感じることにあります。
方法は簡単です。誰もいない部屋であれば、目を閉じてゆっくりと呼吸をしてみましょう。ラクな体勢のまま、ただ呼吸することだけに集中します。
目を閉じた状態で、何を感じますか? 部屋の明かりや、音が気になるかもしれません。けれども、それでいいのです。1分ほど継続したら、静かに目を開けましょう。
もしも目を閉じている間に考えごとがやってきても、無理に追い払わなくて構いません。「今日はそんなことが、とても気になっていたんだな」と感じながら、ゆるやかに呼吸を続けてください。
何度か続けていくうちに「深呼吸をしているだけの自分」に集中できるようになるはずです。
人間の多くの不安や悩みは、「まだ起こっていない将来への恐れ」や「すでに起きてしまった過去の後悔や恨み」に起因したり、「他人の中にある自分とは関係のない問題」や「自分の中にある自分のものではない課題」に起因したりします。
それにとらわれて批判や判断を下しているのが人間の常なのです。
「今、ここ」の自分だけの時間と空間に焦点を当て、そこに意識を集中し、不安や悩みが浮かんできてもジャッジせず、ただ気づくだけで消そうとしなくてもよいのです。
消そうとすると逆にとらわれてしまうので、「今、浮かんだ」「今、現われた」とただ見つめるだけでよいのです。雑念と距離がとれるという状態が自分の心を強くしてくれます。
■イラスト/森下えみこ
■本稿は『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
HSPに関する知識や理解は、心の専門家たちにおいてさえ、まだまだ不十分であり、敏感すぎる自分にどう対処してよいかわからずに困っている人たちがたくさんいます。本書は、HSPの性質からもたらされる日常生活の生きづらさについて、具体的説明や対策などについて、脳科学的知識を入れてなるべくわかりやすく解説しています。
著者のプロフィール
長沼睦雄(ながぬま・むつお)
十勝むつみのクリニック院長。日本では数少ないHSPの臨床医。平成12年よりHSPに注目し研究。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立子ども総合医療・療育センターにて14年間小児精神科医として勤務。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行っていた。平成28年9月に開業し、HSP診療を中心に診療し、脳と心(魂)と体の統合的医療を目指している。
▼十勝むつみのクリニック(公式サイト)」
▼専門分野と研究論文(CiNii)