人の動きは筋力によるものだと思っていませんか? それは誤解です。人が動くときに大切なのは「バランス力」です。だから生活行為を助ける介助も、筋力ではなく、バランス力を使わなければなりません。【解説】三好春樹(理学療法士)
執筆者のプロフィール
三好春樹(みよし・はるき)
1950年生まれ。生活とリハビリ研究所代表。1974年から特別養護老人ホームに生活相談員として勤務したのち、九州リハビリテーション大学で学ぶ。理学療法士(PT)として高齢者介護の現場でリハビリテーションに従事。1985年から「生活リハビリ講座」を開催、全国で年間150回以上の講座と実技指導を行い、人間性を重視した介護の在り方を伝えている。『関係障害論』(雲母書房)、『生活障害論』(雲母書房)、『ウンコ・シッコの介護学』(雲母書房)、『介護のススメ!希望と創造の老人ケア入門』(ちくまプリマー新書)など著書多数。
▼三好春樹(Wikipedia)
▼生活とリハビリ研究所(公式サイト)
▼@haruki344(Facebook)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
本稿は『イラスト図解 いちばんわかりやすい介護術』(永岡書店)から一部を抜粋して掲載しています。
イラスト/ひらのんさ
介護はパワーではなくバランス力
バランスがとれていれば介護に力は不要
介護者もつらい腰痛から解放される!
私の介護学の根拠になっているのは、PT(理学療法士)の養成校で学んだ解剖学です。
もうひとつ大きな影響を受けたのが、「野口体操」で知られる野口三千三(1914~1998)氏です。
野口氏は、重力に抵抗して筋力を発揮することが人の動きだという従来の考えを批判して、重力は味方であり、いかに脱力するかこそが人の動きには大切なのだと説いたのです。
次に紹介する壁を使った実験も、野口氏が示したものの一つにすぎません。
それまでの介護実技では、介護する側が腰を痛めないために、「体を密着しなさい」「足の位置をもっと前に」などの指導が行われていました。
でも大切なのは、動こうとしている主体であるお年寄りがどう動きたいかということなのです。
お年寄りの動きのバランスがとれていれば、介護者はほとんど力を貸す必要はないのです。逆にバランスがとれていないなら、いくら力持ちの人でも腰を痛めてしまうでしょう。
ベッドから車イスへの移乗動作などに必須となる立ち上がりの介助法のポイントは、お年寄りの体の前後バランスがとれているかどうかだからです。
やってみよう!バランス力の実験(1)
指1本で立ち上がれなくなる!?
人間はバランスがとれていないと動くことができないことを教えてくれる実験です。額を人さし指で押されているだけでイスから立ち上がれなくなります。人間が立ち上がる際に大切なのは体の前後バランスです。
やってみよう!バランス力の実験(2)
壁があると脚が動かせなくなる!?
片側の脚の外側を、壁にピタリとくっつけて立ち、反対側の脚を上げてみてください。いくらパワーがあってもバランスがとれていなければ、私たちは自分の脚を自由に動かせないのです。
壁があると動かせなかった脚も、壁がなくなり、頭と脚の左右バランスがとれるようになると、軽々と上がります。人間の動きは、パワーよりもバランスが重要なのです。
なお、本稿は『イラスト図解 いちばんわかりやすい介護術』(永岡書店)から一部を抜粋して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(2)「介護のルール 人の扱い方」はこちら