アイリスオーヤマは、日本の主食である米、米処でもある東北のお米をなんとかしたいという目的から精米業を始め、炊飯器も自社開発しています。瞬熱真空釜IHジャー炊飯器「RC-IF50」はその思いを反映したモデルです。今回は、コレまで美味しいとされてきた美味しさとは全く違う「美味しさ」を味わえる本機をレビューします。
アイリスオーヤマが「炊飯器」を作る目的
会社文化はいい意味で古風…?
アイリスオーヤマは、かなり古風な会社文化を持っています。
その中の一つに地域貢献があります。昔の経営者は、戦国武将の様なところがありまして、自分の地元にいろいろな形で貢献していました。
例えば、岡山の大原孫三郎。倉敷紡績・倉敷毛織(現:クラボウ)、倉敷絹織(現:クラレ)、中国合同銀行(中国銀行の前身)、中国水力電気会社(中国電力の前身)の社長を務め、大原財閥を築き上げた傑物です。しかしすごいのはここから、大原は倉敷でインフルエンザが流行、多くの人がなくなると、倉紡で働いている人だけでなく、倉敷に住むすべての人がみんな同じように利用できる病院をつくることを決心しました。そのために、優秀なお医者さんたちを連れてきたり、病気のことを研究するために必要な医学書をたくさん集めたりしました。また、外国の病院を見学させ、すばらしいところを取り入れるようにもしたそうです。施設はもちろん病人の心を落ち着かせるためドアの配色も工夫したそうです。また、看護婦のための住まい、健康維持のためのプールもあったそうで、とても多角的。この病院が、今の倉敷中央病院につながります。コロナ禍がここまで来ても、病院新設の話は聞きません。中央病院はすでにあるからというのは簡単ですが、今ドキの儲ければという人と志の違いを感じます。
アイリスオーヤマも似たところがあります。こちらは幾分ビジネス系によるのですが、その中の一つに日本の主食である米、米処でもある東北のお米をなんとかしたいという思いがあります。このため、精米業を始め、炊飯器も自社開発します。書くとそれなりの様に感じますが、やさしい道ではありません。ライバル会社は50年位、炊飯器を作り続けている訳です。
そんな中、アイリスオーヤマが見つけたのは、かまどで炊いたご飯は「対流による移動がほとんどない」ということ。それを元に作られたのが、「瞬熱真空釜IHジャー炊飯器 RC-IF50」。7月に商品紹介をしましたので、今回は、実食レポートです。
▼商品紹介の記事【実はかまどで炊くお米はおどらない!?アイリスオーヤマの最新炊飯器「瞬熱真空釜」が他メーカーの高級炊飯器と異なる点】はこちら▼
瞬熱真空釜IHジャー炊飯器「RC-IF50」を実食レポート
本体の重量感の理由
箱から出した瞬間、わかることがあります。1つはすこぶる「重い」ことです。これは高級炊飯器にありがちなこと。高級炊飯器は、蓄熱性の高い内釜を求めます。それは「火」と「IH」で火力が違うからです。それを補うため「蓄熱」が求められるからです。その時、一番よく使われるのは「鉄」です。この鉄をふんだんに使うので、重いのです。
RC-IF50の場合、ちょっと事情が違います。内部にちょっとしたメカが組み込まれているので重いのです。このためRC-IF50は、内釜に取手が付いています。いろいろな炊飯器がありますが、内釜に取手が付いているタイプはありません。意気込みが伝わってきます。
もう一つ特徴的なのは、ディスプレイの小ささです。ひと回り小さいのではありません。そしてタッチパネルですらありません。この独特のビジュアル、レイアウトは、今の王道、見やすく、使いやすくとはちょっと異なります。「スタイリッシュに」というのが組み込まれています。
瞬熱真空釜IHジャー炊飯器 RC-IF50は、今までアイリスオーヤマが手掛けたことのない、今後を開くための炊飯器なのです。
炊いたお米はちゃんと美味しいのか?
しゃもじで触った瞬間にわかる他社機との「違い」
では、この炊飯器「瞬熱真空釜IHジャー炊飯器 RC-IF50」で炊いたお米は、どんなモノなのでしょうか?
炊けたお米を、しゃもじで触った瞬間から違いが感じられます。今ドキのお米が炊きたての時から持つ粘り感がほとんどないのです。
あるメーカーが「踊り炊き」という言葉を用いていますが、今の炊飯器は、IHの強火力により、強烈な対流を起こしお米を動かします。いわゆる「踊り」です。するとお米は、周りのお米と強烈に擦れます。このため米粒の成分が、外に漏れ出します。これが粘りにもなりますし、食べた時の甘さにもなります。「標準」で炊いても、柔らかめ。粒状感が薄い、ちょっと「ペチャ」っとした感触の柔らか目のお米。あまりにやり過ぎたためでしょうか? ここ2年、各社粒状感を重視した、今までよりちょっと硬めの炊き上がりを標準に据えていますが、粘りが十分あることは変わりません。
RC-IF50で炊いたお米は、その真逆です。サラリとした感触。お米の粒状感がたっぷり残っています。このため口に含んだ瞬間に美味しさを感じるわけではありません。しかし、噛むと「美味しい」。私の幼い頃は、「お米はよく噛んで食べる様に」、言われたモノです。「20回は噛むこと。そうすれは甘みが出てくる」と言われたモノです。その言葉が実に当てはまる炊け方なのです。
RC-IF50は、内釜の温度を、均一にするシステムを持っています。そうすると、上下の温度差が出ません。今までの底から熱が回っていく、つまり上下で温度差がある、対流でよく踊るの炊き方とは、逆です。中の水は沸騰するのですが、対流がほとんどないのです。このためお米がほとんど移動しません。言い方を変えると、お米の「動き」による擦れなどの傷みがないのです。中身成分が外に出ているので、噛まずとも甘味、香りが感じられる、今の炊き方とは違うのです。
冷めても「美味い」
この粒状感がものすごく感じられるご飯は、いろいろな特徴を持ちます。その一つに「冷めてもおいしい」ことが挙げられます。水分が飛びにくいので、ご飯が十分な水分をキープしているのです。
また、卵かけご飯、カレーがやたら美味しいことも特徴です。一粒一粒が、卵やカレーに包まれる感じ。しかも噛むとどんどん美味しくなる感じです。当然、おにぎりも美味しい。基本おにぎりは、冷めたご飯ですからね。
別モノとなった美味しさが逆に違和感となるかも
粒形状は保っているモノのしんなりとしていて、一口目、食べた瞬間が美味しい、今ドキのご飯とは別モノです。別モノと言わなければならない位、かけ離れています。商品をヒットさせるためには、ユーザーの半歩先がセオリーです。一歩先だとついてこられないユーザーが多くなるからです。
実は、本機は数歩違うので、多数の支持者を獲得することができないのではと、ちょっと心配になっています。人は、味、香りに関しては、ものすごく保守ですから。これが新しい食材なら、まだ受け入れられたのでしょうが、なんせ「ご飯」。毎日食べているモノですから、差がより強く「違和感」として出てくるのではと、感じています。
アイリスオーヤマは目的を達成できるか?
お米のポテンシャルを見直せるモデル
製…
アイリスオーヤマが、「瞬熱真空釜IHジャー炊飯器 RC-IF50」を開発した理由は、主食としてのお米に注目してもらうためです。そうして農業を活性化させる。東北を中心に、日本の農業を上手く回したいと願うためです。
そのために、かまど炊きを再度見つめ直した結果、あまり対流していないこと、つまりお米同士が擦れ、傷つき合わないということに着目してできたモデルです。しかし、それで炊いたお米は、今ドキの高級炊飯器とは一線を画すモノです。
正直、当モデルがバカ売れして、お米の消費量がすごーく伸びるのは考えにくいのですが、一方、私としては、お米の炊き方で納得できたこともあります。実は、江戸時代、お米は毎日炊きましたが、炊くのは日に一回。要するに、三度ご飯ごとに炊くと、時間と燃料代がすごくかかるからです。ジャーがないので冷めますし、水分を逃しにくい御櫃に入れたとしても、水分は逃げます。しかし、あまり美味しくないという記録は残っていません。確かに温かいお米は美味しいという記載はありますが、不味いという記録はありません。むしろ夏場などは、さっぱりして美味しい感じです。
私は、瞬熱真空釜IHジャー炊飯器 RC-IF50で炊いたご飯は、それをほぼ再現しているのではと思います。また、食べ慣れると(食感に慣れる)と、実に美味しい。というのは、おかずの味を邪魔しないのです。口の中でおかずの味を堪能しているうちに(要するにモグモグしているうちに)、おかずに変わり、ご飯の旨みが出てくる感じです。
ただ単に、美味しく食べるのではなく、お米のポテンシャルを見直せるモデルだと思います。取っつきにくい感じのモデルですが、燻銀の様な価値ある炊飯器だと言えます。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。