厚生労働省が策定した、たんぱく質の日本人の食事摂取基準には「推定平均必要量」「推奨量」「目標量」が示されています。「目標量」は生活習慣病を予防するための指標となりますが、体格や身体活動レベルによっても適切な量は変わってきます。たんぱく質の必要量を確認してみましょう。また、たんぱく質のとり過ぎによる影響や、優秀なたんぱく質源である卵は1日に何個まで食べてよいかについて、書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』著者で理学博士の佐々木一さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
佐々木一(ささき・はじめ)
理学博士。山形大学理学部生命学科卒業後、名古屋大学理学部大学院生物学専攻修了。乳業メーカーの研究員を経て、神奈川工科大学管理栄養学科教授に就任。2019年3月に定年退職。研究員時代にホエイたんぱく質の抗炎症作用を発見し、病院向け流動食として商品化。現在、乳清たんぱく質及び乳清ペプチドを用いた筋肉増強作用の研究を進めている。
▼専門分野・研究論文(KAKEN)
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/くにともゆかり、栗生ゑゐこ、Getty Images
たんぱく質はどれくらいとればよい?
大人の場合、最低必要量は1日あたり女性50g、男性65g
厚生労働省が策定し、5年ごとに更新する「日本人の食事摂取基準」には、(1)「推定平均必要量」(2)「推奨量」(3)「目標量」が示されています。
(1)、(2)に関しては1日あたりのグラム数が示されていますが、(3)は摂取エネルギーに占める割合で表示されており、ちょっとわかりづらいかもしれません。
▼たんぱく質の食事摂取基準
性別、年齢、女性の場合は妊娠期、授乳期によっても摂取基準は変わる。
たとえば、40歳の男性の習慣的な摂取量を考えてみましょう。
推定平均必要量は50g。これは「平均」なので、1日50gのたんぱく質摂取では、不足により50%の健康障害発生リスクがあることを意味します。
推奨量で示されている、1日65gのたんぱく質を摂取すると、%%リスクは2.5%%%{ulred}に下がります。40歳の男性の場合、1日65gは必要と考えてよいでしょう。
そして、目標量は生活習慣病を予防するための指標となります。40歳男性の1日の摂取カロリーが2000kcalだとすると、目標量はその13〜20%、たんぱく質量に換算すると65〜100gになります。
すなわち、推奨量は最低限の摂取量で、目標量を満たすたんぱく質量を摂取すべきなのです。
体格や身体活動レベルによっても適切な量は変わってきます。下の式にあてはめて計算してみましょう。
▼1日に必要なたんぱく質量の目安
最近の研究で、1日の総たんぱく質摂取量と筋肉量増加の関係において、「1.3g/kg体重/日」が増加効率の分岐点であることが判明。
1.3g/kg体重/日を目安に、自分にとって適切な量を考えてみよう。
この計算値は、目標量と同じレベルの摂取量となる。
体重kg×1.3g=1日に必要なたんぱく質量g
例)体重60kgの人の場合➡体重60kg×1.3g=1日に必要なたんぱく質量78g
※筋肉量維持なら、78g前後を目標に。筋トレを行っている人は、1.3g/kg体重/日を超えても筋量増加効率が落ちないことがわかっている。もちろん78g以上の摂取もOK。
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
たんぱく質ってとり過ぎの心配はないの?
よほど大量にとらない限り大丈夫。まずは足りているかどうかを考えよう!
健康維持に欠かせないたんぱく質ですが、とり過ぎによる影響も気になるところです。
たんぱく質のとり過ぎは腎機能へ悪影響を与えるともいわれていますが、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、「健康な人がたくさん食べて悪影響があったという明確な根拠はない」とされ、「これ以上とってはいけない」という数値は設定されていません。
腎疾患のある人はとり過ぎに気をつける必要がありますが、健康な人であれば自分に必要なたんぱく質量を基準として、それより極端に多くとる生活を続けない限り、たんぱく質のとり過ぎを心配する必要はないでしょう。
ただし、脂質の多い肉を大量に食べればカロリーオーバーで太りますし、消化で内臓にかかる負担も大きくなるおそれがあります。
たんぱく質をとるなら量よりもバランスが偏らないように注意しましょう。
ところで、厚生労働省が毎年行っている「国民健康・栄養調査」によると、日本人のたんぱく質摂取量は減少傾向にあるのをご存知でしょうか。
まずは、とり過ぎよりも不足していないかどうかを考えた方がよさそうです。
▼日本人のたんぱく質摂取量の推移
日本人の1日のたんぱく質摂取量平均の低下にともない、体型の変化も見られる。
▼肥満およびやせの割合の推移
たんぱく質の摂取量が減り始める1995年から、男性は肥満の割合、若い女性はやせの割合をみると、それぞれたんぱく質摂取量が最も低い2010年に急増している。
卵は1日に何個まで食べてよい?
コレステロールの心配は無用 2~3個食べても問題なし!
かつて「卵は1日1個まで」といわれていました。それは、血液中に含まれる脂質のひとつ、コレステロールのとり過ぎによる動脈硬化が心配されたからです。コレステロールは体内で合成されますが、食べものにも含まれるため、以前はコレステロール含有量が多い卵や肉などを控えるようにといわれていました。
しかし、コレステロールの8割は体内で生産・リサイクルされており、多めに摂取した場合、体内でつくるぶんを調整していることがわかってきました。食事からとるコレステロールは、健康な人であれば、血液中のコレステロール値に与える影響は小さいことがわかったため、現在では、悪玉(LDL)と善玉(HDL)のバランスがとれていれば問題ないとされています。
▼たくさん食べてもコレステロール値に影響なし
コレステロールは、細胞膜や筋肉をつくるホルモンの材料になるなど、生命維持に欠かせない物質。
卵は良質なたんぱく質源で、ビタミンやミネラルも豊富。人間の体に必要な栄養素が、ビタミンCと食物繊維以外すべて含まれています。筋肉量・筋力の増大、認知症発症リスクの低減などの効果のほか、野菜と一緒に食べることで野菜の栄養素がアップすることや、朝ごはんに卵をとるとダイエット効果があることもわかっています。コレステロールの心配は無用、とはいえとり過ぎには気をつけて、毎日の食卓に上手にとり入れましょう。
▼卵2個でこれだけの栄養素がとれる
各栄養素の1日の必要量に占める割合は次のとおり。
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。ヒトの体の約60%は水分で、次に多いのが約20%を占めるたんぱく質。筋肉の原料となることはよく知られていますが、皮膚や髪、爪、血管、内臓に至るまで、たんぱく質から構成されていることはご存知でしたでしょうか。ダイエットの成功も、美しい肌や髪をつくるのも、心身の健康を保つのも、すべてたんぱく質がカギとなっているのです。本書では、たんぱく質のはたらきから、よりよい摂取方法、また摂取不足が引き起こす諸問題について、わかりやすく説明しています。難しい話は苦手という方でも、たんぱく質についてやさしく学べる内容となっています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※たんぱく質って何?働きと役割、たんぱく質不足のリスクとは?の記事もご覧ください。