腸を制するものは皮膚を制す──腸内環境を整えるこうじ甘酒は、元気な肌や髪をつくるのはもちろん、万病の予防にも有用な天然のサプリメントといっても過言ではありません。加熱処理されたものは、酵素やこうじ菌の活性が失われていますので、こうじ甘酒は手作りに限ります。【解説】柴亜伊子(あいこ皮フ科クリニック院長)
解説者のプロフィール
柴亜伊子(しば・あいこ)
あいこ皮フ科クリニック院長。皮膚科医。奈良県立医科大学医学部卒業。同大学皮膚科助手、美容皮膚科クリニック院長などを経て、2010年から現職。体の内側から健康を取り戻す栄養療法を皮膚科・美容皮膚科の治療に取り入れ、オーソモレキュラー実践医療機関では数少ない特薦クリニックに認定されている。著書に『きれいな肌をつくるなら「赤いお肉」を食べなさい』(青春出版社)がある。
腸内細菌がビタミンB群やビタミンKを産生
私は、「美肌のためには、まず、体の中を健康にする必要がある」という考えから、栄養療法に注力しています。
元気な皮膚を維持するために最も必要なものは、栄養です。私たちの体は、常に新しい皮膚をつくろうとしています。しかし、材料がなければ、元気な皮膚はつくれません。
皮膚をつくるために必要なたんぱく質やビタミン、ミネラルを効率よく摂取できる食材は、肉、魚介類、卵です。
しかし、高齢者や食の細い人、胃腸の悪い人は、肉や魚をたくさん食べることは難しいものです。食べてもうまく消化・吸収できず、栄養として利用することができない状況にあります。
とはいえ、サプリメントの摂取は、お金がかかります。市販の安いサプリメントは添加物が多く、品質も安全とはいえません。
そこで、私が主に胃腸の悪い患者さんにお勧めしているのが、米こうじを発酵させて作る「こうじ甘酒(生甘酒)」です。
桑島内科医院副院長の桑島靖子先生をはじめ、多くの医師が勧められている発酵食で、私も、ヨーグルトメーカーでよく作っています(作り方は下記参照)。
こうじ甘酒のよいところは、なんといっても、腸内環境をよくする点です。
こうじに含まれるグルコシルセラミドが、腸内の炎症を抑え、腸内で善玉菌を増やすという報告があるほか、発酵の過程で腸内細菌のエサとなるオリゴ糖が産生されることがわかっています。
腸内環境がよくなると、腸内細菌によって、ビタミンB群やビタミンKが産生されます。
髪にツヤが出てアトピーも改善する
こうじ甘酒はビタミン類が豊富といわれますが、実は、甘酒自体のビタミンよりも、腸内環境の改善によって産生されるビタミンの恩恵のほうが大きいのではないかと、私は考えています。
ビタミンB群は、すべての細胞のエネルギー産生に必要な栄養素であり、強力な抗酸化作用や、老化促進物質・AGE(糖化最終生成物)の分解作用があることでも注目されています。
皮脂が酸化して過酸化脂質になると、皮膚炎や加齢臭、色素沈着の原因にもなります。ビタミンB群の抗酸化作用は、それらの予防・改善に役立ちます。白髪や薄毛の予防にも、ビタミンB群は欠かせません。
さらに、ビタミンKは、骨粗鬆症や動脈硬化、心臓病発症の予防に効果的です。
食後に適量のこうじ甘酒をとれば、これらビタミンの産生に加えて、甘酒に含まれる消化酵素が、食事で摂取したたんぱく質や脂質、糖質を消化してくれる可能性もあります。
すると、胃腸の悪い人がこれまで吸収できなかった栄養を、しっかり吸収・消化できるようになり、栄養状態はさらに改善します。
加えて、腸内環境が整えば、消化・吸収の能力自体も高まるでしょう。すると、胃腸の悪い人でも、徐々に肉や魚を食べられるようになっていきます。
食べ物から栄養をしっかり摂取できるような体の土台づくりにも、こうじ甘酒は役立つのです。
栄養がしっかり体に入れば、元気な皮膚がつくられます。シミやシワの予防にも有効です。
実際、「こうじ甘酒で皮膚のバリア機能がアップした」「酒かすとこうじの甘酒で目の下のクマが改善」「髪にツヤが出た」という調査結果も報告されています。炎症抑制効果があるので、アトピー性皮膚炎などの改善も期待できるでしょう。
まさに、腸を制するものは皮膚を制す──腸内環境を整えるこうじ甘酒は、元気な肌や髪をつくるのはもちろん、万病の予防にも有用な、天然のサプリメントといっても過言ではありません。
1日大さじ4杯以下を食後にとるのが理想
ただし、こうじ甘酒の効果を得るためには、とり方に注意が必要です。
甘酒は、でんぷんがブドウ糖に分解されている状態のため、吸収が早く、血糖値が上昇しやすいという性質があります。
空腹時にとったり、一気に大量に摂取したりすると、血糖値の乱高下を招く恐れがあるので、控えたほうが無難です。ミキサーで液状に撹拌してゴクゴクと飲むのも、血糖値を気にされているかたにはお勧めできません。
だからこそ、お勧めするのは、手作りのこうじ甘酒です。米こうじの粒々が残っていて、「飲む」というより「食べる」感覚で摂取することが、血糖値を抑える重要な点なのです。
市販のこうじ甘酒は、加熱処理されており、酵素やこうじ菌の活性が失われています。ビタミンも壊れていて、甘酒の効能はほとんど得られません。砂糖が入っている物は、もってのほかです。
こうじ甘酒は、手作りに限ります。食べるときは常温か、温めるにも60度以上にならないよう、くれぐれも注意してください。
食べるタイミングは、食後が理想です。デザート感覚で、1日大さじ4杯以下を目安にとりましょう。多くとるよりも、少量でも毎日摂取するほうが大切です。
なお、ご飯やお菓子のかわりに甘酒をとる場合は、量を少し増やしてもかまいません。とはいえ、甘酒も糖質が多いことだけは心得てください。
こうじを使った日本古来の発酵食品は、日本人の体に合ったすばらしい物です。こうじ甘酒はアルコールが入っていないのも利点。子供からお年寄りまで、安心して召し上がれます。
皆さんも、食べ方をしっかり守って、こうじ甘酒を毎日の美肌づくり、そして、健康づくりに役立ててください。
ヨーグルトメーカーを使う「こうじ甘酒」の作り方
【材料】
・乾燥(もしくは生)米こうじ…200g
・水…400ml(生米こうじの場合は250ml)
【作り方】
❶ほぐした米こうじを専用容器に入れ、水を注いでふたを閉める。
❷温度を60度、タイマーを6時間にセットして、スタートボタンを押す。
◎黄色みを帯び、甘みが出ていたら完成。