発酵トマトに含まれる乳酸菌は、加熱して死菌になっても、腸内で善玉菌を増やす働きをしてくれるので、生で食べることにこだわる必要はありません。さらに私が注目しているのは、発酵トマトを食べることで腸内で作られる、「短鎖脂肪酸」という物質です。【解説】藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授)
解説者のプロフィール
藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)
東京医科歯科大学名誉教授。医学博士。感染免疫学者。1939年、旧満州生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院修了。金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学大学院教授を歴任。長年にわたり腸内細菌の研究に取り組む。著書は『腸で寿命を延ばす人、縮める人』(ワニブックスPLUS新書)、『元気なままで長生きしたければ「腸にいいこと」だけをやりなさい!』(扶桑社文庫)など多数。
乳酸菌と日和見菌で腸内環境が整う
実は、私はトマトが大好きなのです。今回は、はじめて「発酵トマト」を食べてみたところ、そのおいしさに驚きました。
トマトの甘さとうまみが凝縮された味わいになっていて、どんどん食べてしまいます。日が経つにつれて乳酸菌が増え、酸味が増し、味の変化が楽しめるのもいいですね。
トマトはもともと、優れた栄養素を持っています。トマトに含まれるリコピンはすごい抗酸化力があり、活性酸素を消してくれるのです。
活性酸素が増えると、細胞が酸化し、免疫力が落ちてしまいます。そのため活性酸素を消すリコピンがとれるトマトは、健康を維持するうえでとても役に立つ野菜で、毎日でも食べてもらいたいくらいです。
さらに、発酵トマトとして発酵させれば、菌をとることでき、腸内に乳酸菌や日和見菌を増やして、腸の働きをよくする善玉菌を優位にしてくれます。
その結果、便秘や肥満、疲労、アレルギーなど多くの病気の予防・改善にも力を発揮するのです。
こうした腸内環境の改善は、ほうっておくと深刻な症状を引き起こす、糖尿病の予防・改善にも役立ちます。
毎日の発酵食品で糖尿病を撃退
日本人の5人に1人が糖尿病といわれる時代ですが、私も今から20年ほど前、糖尿病を患っていました。
医師としてお恥ずかしい限りですが、多忙な毎日で、ラーメンやチャーハンなど炭水化物が中心の食生活を送っており、体重も今より15kgほど太っていたのです。糖尿病だと気づいたときは、血糖値が500mg/dl以上になっていて重症でした(正常値は110mg/dl未満)。
糖尿病は合併症が恐ろしく、失明したり、透析が必要になったり、脳卒中や心臓病の発作が起こりやすくなります。
私はすぐに治療を開始しましたが、カロリー制限だけでは難しく、糖質制限をしたことでみるみるうちに改善しました(グラフ参照)。
そして糖質制限の効果から、糖尿病の改善で重要なのが腸内環境だと気づいたのです。
《藤田鉱一郎先生の血液検査の数値の変化》
炭水化物をとると、腸が糖質を分解するのには大きなエネルギーを使うため、脂肪の分解に使うエネルギーが弱くなり、悪玉菌が増加します。一方で糖質を減らすと、脂肪をしっかり分解でき、善玉菌が増え、やせやすくなるのです。
肥満は糖尿病の原因の一つですが、善玉菌が優勢な腸内環境に変われば太りにくくなって、糖尿病が再発しにくい体になります。
ただし、善玉菌を増やすには、糖質制限だけでは難しく、発酵食品や食物繊維をたくさんとることが大事になってきます。さらに腸内細菌は1日で死んでしまうので、毎日とり続けることが必要です。
発酵トマトのように長期保存できるものなら、毎日いろんな料理に使うことができるので、腸内の善玉菌を増やすのに便利ですね。
発酵トマトに含まれる乳酸菌は、加熱して死菌になっても、腸内で善玉菌を増やす働きをしてくれるので、生で食べることにこだわる必要はありません。
発酵トマトから生まれる短鎖脂肪酸に注目
さらに私が注目しているのは、発酵トマトを食べることで腸内で作られる、「短鎖脂肪酸」という物質です。
短鎖脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維を分解発酵することで生じる物質です。酢酸・酪酸・プロピオン酸の総称でもあります。これが体内に増えると、次のような働きをすることがわかっています。
・血糖値の上昇を抑え、血糖値スパイクや糖尿病を改善
・脂肪の取り込みを抑え、太りにくくなる
・腸のぜん動運動を促し便秘を改善
・アレルギー反応を抑える
・うつやアトピー、ぜんそく、疲労などを改善
・悪玉菌や有害菌の活動を抑える
この短鎖脂肪酸は、腸内で善玉菌によって作られます。
善玉菌を増やすには、先ほどお話ししたように、発酵食品や食物繊維を食べることが大事なのです。
なかでも発酵トマトは、発酵食品+食物繊維のコンビなので、短鎖脂肪酸を増やす腸内環境づくりの、強い味方になってくれるでしょう。
別記事:「発酵トマト」の作り方&レシピ→