血糖値が食後に急上昇し、その後短時間で急降下する症状は「血糖値スパイク」と呼ばれています。近年、レジスタントプロテインは、糖質にも結合し一緒に排出されることがわかってきました。つまり、レジスタントプロテインの多い高野豆腐は、この血糖値スパイクの予防・改善にも役立つでしょう。【解説】鎌田實(諏訪中央病院名誉院長・作家)
解説者のプロフィール
鎌田實(かまた・みのる)
諏訪中央病院名誉院長・作家。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり、潰れかけた病院を再生させた。「地域包括ケア」の先駆けを作り、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導く。現在、諏訪中央病院名誉院長、地域包括ケア研究所所長。一方、ベラルーシやイラク、東北地方など国内外の被災地の支援に力を尽くし、診察や講演などで多方面で精力的に活動中。『鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』(集英社)他、著書多数。
高野豆腐のたんぱく質が血糖値の急上昇を抑える
日本の伝統的な大豆加工食品の一つである高野豆腐。長野県は、この高野豆腐の日本一の生産地です。
私は長野県で長い間、県民の健康づくりに携わってきました。長野県の食文化を後世に伝えるためにも、現在、健康に役立つ食品として高野豆腐を強く勧めています。
高野豆腐の健康パワーの一つは、「レジスタントプロテイン」によるものです。
レジスタントプロテインは、高野豆腐に多く含まれる植物性たんぱく質の一種です。このレジスタントプロテインは、腸内では消化・吸収されにくい特徴があります。
そのため、腸内で余分なコレステロールをからめ取り、そのまま体外へ排出する働きが期待できるのです。
中高年になると、血中のLDLコレステロールや中性脂肪が上がりやすくなります。これらの値が高い状態が続くと、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞、パーキンソン病などのリスクが高まります。その予防には、レジスタントプロテインを豊富に含む高野豆腐がお勧めです。
そして、近年、レジスタントプロテインは、糖質にも結合し、そのまま一緒に排出されることがわかってきました。つまり、食物繊維と同じように、食後の血糖値の急上昇を抑える働きが期待できるのです。
普段は正常である血糖値が食後に急上昇し、その後短時間で急降下する症状は「血糖値スパイク」と呼ばれています。
血糖値スパイクを放置すると、糖尿病に至ります。また、血管壁が傷ついて動脈硬化が進むため、脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高まります。がんや認知症も、血糖値スパイクとの関連が指摘されています。
レジスタントプロテインの多い高野豆腐は、この血糖値スパイクの予防・改善にも役立つでしょう。
骨粗鬆症の予防や免疫力アップにも
植物性たんぱく質を多く含む高野豆腐は、高齢者の健康維持にもうってつけです。
加齢で筋力や精神力が低下した状態は「フレイル(虚弱)」と呼ばれます。要介護者の36.5%が筋肉のフレイルに至っていたという報告もあります。寝たきり状態を防ぐためには、筋力の維持も重要なのです。
私も近年は「貯金よりも貯筋」と言い、高齢者に筋力維持のための運動を勧めています。
筋肉の材料となるのは、たんぱく質です。ただ、高齢者の多くはさっぱりとした味つけを好むため、たんぱく質が不足しがちです。たんぱく質の多い肉や卵、牛乳などはコレステロールなどの脂質が気になるという人も少なくありません。
そんな人でも、高野豆腐であれば安心して食べられるはずです。
高野豆腐には日本人が不足しがちな亜鉛や鉄、カルシウムなどのミネラルも含まれています。亜鉛は細胞が生まれ変わるさいに必須のミネラルです。鉄は造血に、カルシウムは骨の健康維持に欠かせません。
高野豆腐1枚には、アサリ9個分の亜鉛と、シラス18g分の鉄、ヒジキ7g分のカルシウムが含まれています。
また、高野豆腐には骨量の減少を食い止める大豆イソフラボンも含まれています。骨粗鬆症の予防にも、高野豆腐はお勧めです。
高野豆腐は食物繊維も比較的多いため、便通を改善し、腸の健康を維持するのにも役立ちます。腸内環境がよくなれば、病気に抵抗する免疫力も高まるでしょう。
食物繊維を含む一方で、腸への負担は根菜類ほど強くはありません。腸の病気を患ったかたでも、比較的安心して食べられるのも利点です。
このように、高野豆腐にはさまざまな健康効果が期待できます。私も毎日1枚を目安に、煮物やみそ汁、鍋料理などで高野豆腐を食べています。
もともと高野豆腐は、仏教の精進料理で肉の代用品として用いられていました。現在の食卓でも、肉や小麦粉などの代用品として扱いやすいはずです。
例えば、高野豆腐を砕いて粉状にした粉豆腐を、ハンバーグのひき肉やパン粉の代わりに加えれば、脂質や糖質の量を抑えられるでしょう。諏訪中央病院では、ピザの生地に高野豆腐を用いることもあります。
ただし、高野豆腐はたんぱく質を多く含むため、腎不全などの病気のかたは摂取量にご注意ください。
《鎌田實先生の高野豆腐の食べ方》
健康効果が研究でも実証されている
高野豆腐は栄養価に優れた食品です。さらに近年は、さまざまな健康作用があることが実験や研究でも実証されてきています。ここでは、その研究報告をいくつかご紹介しましょう。データはいずれも、高野豆腐メーカーの旭松食品株式会社から提供を受けています。
(1) 血液中の食後中性脂肪値の上昇を抑える
牛ひき肉のハンバーグと、牛ひき肉の80%を粗びき高野豆腐に置き換えたハンバーグをそれぞれ10人に食べてもらい、食後の血液中の中性脂肪値の上がり方の差を調べました。
結果は、どちらも食後約4~5時間後に中性脂肪値がピークに達しました。ただ、高野豆腐のハンバーグは通常のハンバーグよりもピーク値が約半分に抑えられました(下グラフ参照)。
(2) 血液中の善玉コレステロールを増やす
40名の男女に高野豆腐を1日1枚、1ヵ月間食べてもらいました。その結果、血液中のHDL(善玉)コレステロールは上昇。さらに、HDLコレステロールとLDL(悪玉)コレステロールの割合も変化しました。
悪玉のLDLコレステロールの値が正常値でも、HDLコレステロールの値が低すぎると動脈硬化のリスクは高まります。
一般に、LDL÷HDLの値が2.5以上だと動脈硬化のリスクが高いとされています。実験では、このLDL÷HDLの値も下がることが確認されたのです。
これら二つの実験結果は、高野豆腐に豊富なレジスタントプロテイン(消化されにくいたんぱく質)の働きによるものと考えられます。
高野豆腐作りでは、まず強い圧をかけて硬い豆腐を作ります。その豆腐をゆっくりと凍らせてから水分を抜きます。
水はゆっくりと凍らせると体積が増します。このとき、豆腐の中では氷に押しやられてたんぱく質の分子にさらに強い圧が加わります。これらの工程で、たんぱく質の小さな分子は互いに強く結合して、大きなレジスタントプロテインとなるのです。
レジスタントプロテインは、腸内で脂質や胆汁酸を吸着し、吸収を抑制すると考えられています。食事に含まれる脂質の吸収が抑えられれば、食後の中性脂肪の上昇も抑えられます。
また、胆汁酸は脂肪の消化を助けるために分泌される胆汁の主成分で、肝臓で作られます。
胆汁酸の材料はコレステロールです。そのため、レジスタントプロテインとともに胆汁酸が排泄されると、体は全身から余分なコレステロールを肝臓へ集めて新たな胆汁酸を作ろうとします。
その余分なコレステロールの回収役がHDLコレステロール。高野豆腐で血液中のHDLコレステロールが増えるのは、このためと考えられます。
最新研究では床ずれの治りを早める効果も
(3) 血糖値の上昇を抑える
高野豆腐を毎日食べることで糖尿病の予防・改善効果が期待できるという報告もあります(下グラフ参照)。
この調査では、ヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖値がわかる数値)が高めの7人に、高野豆腐を1日1枚、3ヵ月間食べてもらいました。その結果、ヘモグロビンA1cと体脂肪率がともに低下しました。
そもそもこの実験は、腸内でレジスタントプロテインと似た働きをするコレステロール低下薬がヘモグロビンA1cも下げることから、レジスタントプロテインもヘモグロビンA1cを下げるのではないかと期待して行われたのだとか。
実験でヘモグロビンA1cが低下したのは、やはり高野豆腐のレジスタントプロテインがかかわっているのでしょう。
(4) 床ずれの治りを早める
つい先日発表された研究結果ですが、高野豆腐には、寝たきりの人に多い床ずれ(褥瘡)の改善効果も期待できるようです。
実験で、褥瘡ができたマウスに毎日粉末高野豆腐を食べさせました。粉末高野豆腐の量は、体重60kgの人間で換算して1日1枚に当たる量です。
結果は、何も食べさせなかったマウスよりも、粉末高野豆腐を食べたマウスは床ずれの完治まで2日ほど早く(下グラフ参照)、患部の面積が小さくなるのも早いことがわかりました。高野豆腐に含まれているたんぱく質や亜鉛などが、床ずれの治癒に役立ったと思われます。
これからも、高野豆腐の健康効果が続々と明らかになっていくことでしょう。高野豆腐はその効果の多彩さゆえに、生活習慣病が気になるかたはもちろん、寝たきりを防ぎたい人、成長期のお子さん、スポーツアスリートなど、年齢や性別を問わずに食べてほしい食品なのです。