【眼瞼下垂の手術】行くのは形成外科?美容外科?保険適応の範囲は?腫れはどのくらい?専門医が教える手術の基礎知識・Q&Aまとめ

美容・ヘルスケア

眼瞼下垂は「まぶたが上がるようにする」という点については、シンプルな手術でよくなり、ほとんど問題は生じません。ですが、傷を目立たなくするため手術後は二重になりますので、元が一重の人は、かなり目や顔の印象が変わることを覚悟しておく方がよいでしょう。【解説】金沢雄一郎(形成外科専門医・医学博士)

解説者のプロフィール

金沢雄一郎(かなざわ・ゆういちろう)

形成外科専門医。医学博士。1974年生まれ、宮崎県出身。新潟大学医学部医学科を卒業後、千葉大学形成外科学教室へ入局。その後、千葉大学形成外科で眼瞼専門外来を開設。現在は、まぶたの治療に特化した形成外科医として、眼瞼下垂などの治療にあたっている。

眼瞼下垂は症状が進んだら元には戻らない

まぶたと筋肉の連結を修復する手術が必要に

[別記事:まぶたが下がり視界が狭まる眼瞼下垂とは→]

眼瞼下垂は、注意点(上記別記事参照)を守っていれば、ある程度進行を抑えることはできます。しかし、いったん症状が進んだら、元には戻せません。

そのため、外見がひどく気になったり、生活に支障が出てきたり、頭痛などの症状が強かったりする場合には、手術を検討することになります。

まぶたを引き上げている筋肉(眼瞼挙筋)は、目の奥から延び、まぶたのところで腱膜(筋肉のすじ)になって、まぶたの縁に連結しています。この連結がゆるんだり、切れたりして起こるのが眼瞼下垂ですから、手術ではここをつなぎます。

具体的には、まぶたの皮膚を少し切り、すぐ下にある眼瞼挙筋の腱膜を、ちょっぴり引き出します。そして、まぶたを形作っている「瞼板」という組織に、糸で縛って固定します。

すると、その瞬間からまぶたに力が伝わるようになり、パッと目が開くようになります。

眼瞼下垂では、眼瞼挙筋そのものは弱っていません。まぶたとの連結がうまくいっていないだけなので、その連結を修復させることで、よくなるのです。

まぶた治療の専門医を事前に確認しておこう

手術後は「見た目」が変わることを覚悟

まぶたが上がるようにする」という点については、このシンプルな手術でよくなり、ほとんど問題は生じません。

実は、眼瞼下垂の手術で最も問題になるのは、「見た目」なのです。

まぶたを切開した傷を目立たなくするため、手術後は二重になります。ですから、元が一重の人は、かなり目や顔の印象が変わります。

また、元が二重の人も、一重の人ほどではありませんが、変わる場合があります。眼瞼下垂の手術を受けると、多少の差はあれ、見た目が変わることを覚悟しておく方がよいでしょう。

その中で、「どの程度の変化に収めたい」「どんな印象に近づけたい」などという要望があれば、事前に医師とよく話し合っておくことが大切です。

手術は「眼科・形成外科・美容外科」で行われている

眼瞼下垂の手術は、眼科、形成外科、美容外科で行っています。最初の入り口になるのは、多くの場合、眼科か形成外科でしょう。

ただし、眼瞼下垂の手術は、やや特殊な領域です。そのため、眼科医や形成外科医なら、誰でもやっているというわけではありません。

行う医師がそれほど多くないことから、月のうちの決まった日だけ、外部から専門医を招いているケースも多いのです。

そのため、事前に電話などで、「まぶたの治療を専門にしている医師が、常勤に限らず、非常勤でもいますか」と、問い合わせてから受診するとよいでしょう。

見た目を気にするなら美容外科も選択肢に

健康保険が適用になる場合とならない場合がある

もう一つ知っておきたいのが、眼瞼下垂の手術には、健康保険が適用になる場合とならない場合があることです。

この区別は厳密ではなく、診察した医師が病的と判断すれば保険適用となり、そうでなければ自費になります

あるいは、美容的な部分を追求したいなら、自費になる確率が高いです。美容の悩みがメインの場合、一般的には、美容外科で相談することになります。

しかし実際は、健康保険できれいに仕上がることもありますし、自費だから絶対に思い通りになるとも言いきれません。ただ、平均値で言えば、自費で美容外科の手術を受ける方が、きれいに仕上がることが多いでしょう。

下で紹介している写真は、私が眼瞼下垂の手術を行った患者さんの例です。40代の女性で、眼科で眼瞼下垂の診断が下り、紹介されてきた方です。

眼瞼下垂の手術でこんなに変わる!

進み方としては中程度で、今から10〜20年前は、このくらいだと眼瞼下垂と診断されないことも多いものでした。しかし、最近では、以前より病気として認知されるようになってきたので、重症化する前から、相談しやすくなっていると思います。

手術後に肩こりや頭痛などが軽減・解消されることも

また、眼瞼下垂自体はこのレベルでも、肩こりや頭痛などの原因になっているケースは多いものです。そのため、手術後はそれらが大幅に軽減・解消されることがよくあります。

私自身も10年前、35歳のときに眼瞼下垂の手術を受けました。まだ軽症の段階でしたが、患者さんから前後の変化を聞くうち、自分もまぶたの専門医として、手術を受けてみたくなったのです。

術後は、目がしっかり開くようになったのはもちろん、若いときからあった肩こりが大幅に改善しました。いつも張っていた肩が、手術の翌日、ふにゃふにゃになっていたのです。これには、非常に驚きました。

ちなみに、眼瞼下垂の手術を受ける人の年齢は幅広くいらっしゃいます。私が担当している医療機関で言うと、眼科や形成外科では60代前後の方が多いのですが、美容的な治療をしているクリニックだと、30代で悩まれている患者さんもいました。

眼瞼下垂や、それに伴う症状に悩んでいる方は、必要に応じて手術を検討するのがよいでしょう。その際は、ここに挙げた基礎知識を踏まえた上で、医師に相談してみてください。

眼瞼下垂手術Q&A

不安を解消してから手術の検討を

眼瞼下垂の手術を受ける際、どうしても不安になるのが「手術をした後の生活や見た目の変化」だと思います。

ここでは、手術を受けるタイミングや医師選びのポイント、手術後の注意点など、よくある質問についてご紹介します。手術を受けるか悩んでいる方は、この項を参考にするのもよいでしょう。

ただし、くれぐれも自己診断をせず、事前に医師に相談するようにしてください。

Q1. 手術は早めに受けた方がよいのでしょうか。

A1. 早いほど、負担や見た目の変化が少なくて済みます。

基本的に、眼瞼下垂と診断されたら、早めに手術を受けた方がよいでしょう。

例えて言うなら、家の耐震補強のようなもの。倒れた後で建て直すよりも、まだ傾きが少ない段階で修理をしていく方が、早くてらくだからです。

また、手術を受けるのが早いほど、手術前後の見た目の変化も少なくて済みます。

Q2. 手術を依頼する医師は、どうやって選べばよいですか。

A2. 事前に情報を集め、最後は実際に受診して決めましょう。

眼瞼下垂の手術を行うのは、眼科・形成外科・美容外科です(詳細は前項参照)。まずはインターネットで情報を集めたり、電話をかけたりして、まぶたの専門医がいるかなどを確かめましょう。

最終的には、実際に受診し、自分が信頼できると思えるかどうか判断するのがお勧めです。

受診した際にチェックしておきたいポイントは、ご自身の希望を述べたとき、その医師がよく話を聞いてくれて、それに応えようとする姿勢があると思えるか。納得のいかないまま手術を受けると、8割うまくいっても、残りの2割に気をとられがちになるからです。

自分が信頼できる医師ならば、8割の成功を重視し、受け止めることができるでしょう。医師と患者も人対人なので、心のつながりを大切にして、やりとりしましょう。

「この医師なら安心!」と思える人を見つけよう

Q3. 手術後はすぐ通常の生活に戻れますか。

A3. 最低1ヵ月は、腫れなどが残ると思っていてください。

眼瞼下垂の手術を受けた後、私は「少なくとも、必ず1ヵ月はダウンタイムをとってください」と、患者さんたちにお話ししています。

ダウンタイムとは、術後の腫れやむくみが残り、人と会うなどの日常生活が制限される期間のことです。腫れやむくみの出方には個人差がありますが、人によっては、かなりひどく出る場合もあります。

ですから、親族の結婚式などの予定がある場合は、それが終わってから手術を受けることをお勧めします。また、営業などの人と会う職業の人は、その期間の仕事が制限されることを、心得ておきましょう。

Q4. コンタクトレンズは、以前のように使えますか。

A4. 使えますが、「まぶたに優しく」を心がけましょう。

せっかく手術を受けるのですから、術後は再発予防のために、まぶたへの物理的な刺激は極力避けたいものです。

コンタクトレンズは、使わなくて済むならば、使わない方がよいでしょう。まぶたのためには、それがベストです。

しかし、「実際そうはいかない」という人が大部分かと思います。現に、手術を受けられた患者さんも、術後にコンタクトレンズを使っています。

ただ、再発を防ぐという観点から言えば、着脱の際にまぶたを強く開いたり触ったりせず、ソフトタッチを心がけるようにしましょう。

Q5. 一度手術を受けたら、効果はずっと続きますか。

A5. 術後はいったん若返りますが、そこからまた、老化とともに眼瞼下垂が進みます。

眼瞼下垂の最も大きな要因は、加齢です。そのため、手術を受けても、そこからまた通常の老化と同じく、まぶたが垂れ下がりやすくなっていきます。

個人差も大きく、ハッキリとは言えませんが、10年、20年たてば、その年齢分の下垂のリスクが出てきます。人によっては、再手術が必要になる場合もあります。

ただし、手術を受けた分、いったんはまぶたが若返ったような状態になります。その意味では、若返った分の効果は残ると言えます。

手術の効果をできるだけ持続させるには、前項で触れたように、まぶたを優しく扱うようにしましょう。

Q6. 黒目の隠れ方などは、手術適応の目安になりますか。

A6. 数量的な判定は難しいので、困り度や希望で判断を。

医学的には、黒目の中央のポイントから、まぶたまでの距離を測る方法もあります。教科書の説明では、その距離が2mmを下回ると、手術の適応範囲といわれています。

しかし、これが若い人ならば、かなり進行している状況です。その半面、80代の人の場合は、十分な見え方とも言えるでしょう。

年齢や数値的なもので判断するよりは、どのくらい困っているか、その状況を改善したい希望があるか、ということをベースに、医師とよく相談することをお勧めします。

[別記事:まぶたが下がり視界が狭まる眼瞼下垂とは→]

この記事は『安心』2020年4月号に掲載されています。

 

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