【鍼灸はなぜ効く?】ツボ治療のエビデンス(科学的論拠)を解説 皮膚への刺激は神経を通って脳に届く

美容・ヘルスケア

皆さんのなかには、「ツボや鍼灸は怪しい、信用ならない」と思っているかたがいらっしゃるかもしれません。東洋医学は、「気」や「経絡」など、目に見えない「概念」で説明されるため、なかなか納得しづらいものです。しかし、実際に鍼灸や指圧を受けると、肩こりが楽になったり、耳鳴りや便秘が改善したりすることは少なくありません。「ツボを刺激すると、なぜ不調が改善するのか?」アメリカの大学で鍼灸理論を科学的に研究した、統合医療「クリニック徳」院長の高橋徳先生に、お話を伺いました。
【解説】高橋徳(統合医療クリニック徳院長・ウイスコンシン医科大学名誉教授)

解説者のプロフィール

高橋 徳(たかはし・とく)

1977年、神戸大学医学部卒業。関西の病院で消化器外科を専攻した後、1988年に渡米。ミシガン大学助手、デューク大学教授を経て、2008年よりウイスコンシン医科大学教授、2018年に名誉教授。米国時代の主な研究テーマは「鍼の作用機序」と「オキシトシンの生理作用」。2016年、名古屋市にクリニック徳を開業。主な著書に『8つのツボで30の病気を治す本』(マキノ出版・2017)、『人のために祈ると超健康になる!』(マキノ出版・2018)などがある。
▼統合医療クリニック徳(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

ツボにエビデンスはあるのか?

「気」や「経絡」の説明では納得できない

一般に、ツボの効能については、「気(東洋医学でいうエネルギー)」や「経絡(気の通り道)」といった、独自の考え方で説明されます。しかし、そんな説明に納得できず、ツボの効能自体にも疑いを持ってしまう人が多いのではないでしょうか。

とりわけ、西洋医学の立場からは、ツボは「エビデンス(科学的な論拠)のない」ものに見えるでしょう。私自身がそうでした。外科医として働き始めたとき、ツボや東洋医学を疑いの目で見ていたのです。

そんな私が、鍼灸を治療に取り入れ、皆さんにツボ刺激を勧めるようになったきっかけは、自分自身の肩こりでした。

医学を学んでも肩こりが治せない!

私は若いころからひどい肩こり症で、医師として働き始めた後も悩み続けました。大学で医学を学んでも、自分の肩こりを治せなかったのです。

そんな私が、たまたま勧められて鍼を打ってもらったところ、その頑固な肩こりがあっさり治りました。私は、これをきっかけに東洋医学やツボに関心を抱き、鍼灸を学び始めたのです。

その後、アメリカの大学で基礎医学の研究を行っていたとき、私が新しい研究テーマの一つとして選んだのが、ツボでした。ツボの効能を、西洋医学的な方法論で解明しようとしたのです。研究を進めるうちに、「なぜ、慢性疾患に対して、西洋医学よりもツボ刺激が有効なのか」がわかってきました。

ツボの理論は科学的に説明できる

皮膚が受けた刺激は脳に働きかける

体の表面の皮膚や筋肉には、知覚神経が豊富に分布しています。これらの神経は、痛みや温感などの情報を皮膚から受け取り、大脳皮質(脳の表面部分)の知覚神経の中枢へ伝えます。

ツボに鍼を打つと、その刺激は知覚神経を介して脊髄(脳からつながる太い神経)に入り、「脊髄視床路」という経路を通って脳へと伝えられるのです。

ところが、脊髄の神経は大脳皮質に至るまで、さまざまに分岐しています。このため、脊髄を上っていった刺激の情報は、脳のいくつもの部位に届けられるのです。

情報が、脳のどの部位に届くかによって、違う作用が起こります。おのおのが特定の神経活動を促したり、特定のホルモンの分泌を促したりするのです。

それらの作用は、次の4つに分けられます。
(1)延髄に届く→自律神経系の調整作用
(2)中脳に届く→オピオイドの鎮痛作用
(3)視床下部に届く→オキシトシンの抗ストレス作用
(4)脊髄反射→GABAの鎮痛作用

ツボが効く4つの理由

自律神経の調整やホルモン分泌を促す

(1)の延髄は、脳幹にあります。脳幹は、中枢神経系を構成する重要な部位が集まる場所です。大脳に近い側から、中脳、橋、延髄と並び、これらと間脳をあわせて、脳幹と呼びます。

このうち、延髄は自律神経の中枢で、生命維持に欠かせない機能を担っています。

自律神経は、自分の意志とは関係なく、内臓や血管などをコントロールしている神経で、交感神経と副交感神経の2つからなります。交感神経は、いわゆる活動の神経で、主に昼間に優位となります。副交感神経は、いわゆる休息の神経で、主に夜に優位となります。交感神経がアクセル役、副交感神経がブレーキ役と考えればわかりやすいでしょう。

ツボの刺激が延髄に届くと、自律神経を調整することがわかってきました。自律神経の乱れを調整することで、症状が軽快するのです。

(2)の中脳は、脳幹の上部に位置します。刺激が中脳に入ると、オピオイドの分泌が促され、鎮痛効果がもたらされます。オピオイドは、いわゆる脳内麻薬で、痛みを脳に伝える神経に働きかけて、痛みを弱めてくれます。

(3)の視床下部は、間脳の下部にあって、自律神経や情動行動の調節などを行っています。ツボ刺激が視床下部に入ると、オキシトシンというホルモンの分泌が促されます。オキシトシンは、抗ストレス作用によって、不安を和らげたり痛みを減らしたりすることが、最近の研究でわかっています。

(4)は、脊髄反射です。脳まで届かずに、脊髄で返ってくる反応です。
腰痛やひざ痛といった、慢性疼痛に悩まされている人の場合、患部周辺を押すと、痛みを感じるところがあります。これを「圧痛点(トリガーポイント)」と呼んでいます。

この圧痛点が効果をもたらすシステムも、解明されてきました。圧痛のある場所を押し、その刺激が脊髄に入ると、脊髄反射が起こり、そこで、GABA(ガンマアミノ酪酸)という物質の分泌が促されます。GABAには鎮痛作用があるため、圧痛点への刺激によって、痛みが弱まるのです。

圧痛点は、正確にはツボではありませんが、ツボのもたらす効果の一端を担っていると考えることできます。

ツボは、スイッチのようなものと考えてもいいでしょう。あるスイッチを押すと、その刺激が脊髄を伝わり、刺激の届いた先で、自律神経の調整を促したり、オピオイドやオキシトシンなどのホルモンの分泌を促進させたりします。それらの総合的な結果が、ツボ刺激の効果として現れるのです。

このように、気や経絡によって説明されてきたツボの理論は、西洋医学の言葉でいい換えることができます。

ツボ刺激による実際の効果は?

遠く離れた場所の症状を改善する

ツボ刺激の場合、患部から遠く離れたツボを刺激することで、症状が抑えられるケースがしばしばあります。患部を直接治療する西洋医学から見ると、こうした現象は「不思議な効果」として受け取られてきました。

しかし、それは、これまでお話ししてきたとおり、ツボへの刺激は脊髄を介して脳へ届き、脳の各部から分泌されるホルモンなどが、患部へ効果をもたらすからです。まったく不思議ではありません。

有名な3つのツボを例に取り、ツボの遠隔効果について説明しましょう。

手の甲にある合谷(ごうこく)というツボは、歯痛をはじめ、痛み全般に効くといわれています。
ハーバード大学のグループは、fMRI(磁気共鳴機能で脳の活動を調べる方法)を使った臨床研究で、合谷に鍼を打つと、中脳に確かな反応が起こることを確認しています。合谷への刺激がなければ、中脳は無反応のままでした。

こうした観察結果から、合谷を刺激すると、知覚神経から脊髄を介して、刺激が中脳に届き、脳内麻薬であるオピオイドが分泌され、鎮痛効果をもたらすと考えられます。

同時に、合谷への刺激は視床下部にも働きかけ、オキシトシンの分泌も促します。オキシトシンにも痛みをおさえる作用があります。両者の働きで、痛みが抑制されるのでしょう。

合谷(ごうこく)

また、足のひざ下に位置する足の三里(あしのさんり)は、胃腸の不調によく効くことが知られています。

ラットを拘束してストレスを与えると、自律神経のうち交感神経が優位となり、胃の働きが低下します。私たちがプレッシャーを感じると食欲が低下しますが、それと同じような反応が起こるのです。

そこで、ラットの足の三里に鍼を打ちます。すると、その刺激は延髄へ伝わり、自律神経の調整を促します。交感神経の緊張が弱まり、副交感神経が高まった結果、低下していたラットの胃の機能が回復することが、実験で確認されています。

足の三里(あしのさんり)

さらに、手首にある内関(ないかん)というツボは、吐き気や嘔吐をおさえるツボとして有名です。

抗ガン剤の副作用による吐き気に患者さんたちの内関に鍼を施したところ、吐き気がおさまったという臨床研究が報告されています。これは、内関のツボを刺激すると、中脳でオピオイドの分泌が促され、大脳の嘔吐中枢の興奮を鎮めると考えられます。

内関(ないかん)

薬を減らすことができる

私のクリニックには、慢性的な疾患や症状に苦しみ、薬の量がどんどん増えて、やめられなくなっている人がたくさんやってきます。こうした人たちに、ツボ刺激は大きな力となります。

ツボ刺激によって自分の脳からオピオイドを分泌させると、痛みの症状をおさえながら、薬の量を減らしていくことができるからです。薬に頼らなくなるということは、自分の自然治癒力によって、慢性疾患をコントロールできることを意味します。

「なぜ、慢性疾患に対して、西洋医学よりもツボ刺激が有効なのか」の答えは、ここにあります。

病気の予防にも役立つ

ツボへの刺激は、慢性疾患や慢性症状だけではなく、日常のささいな不快症状や痛みなど、いわゆる「未病」の軽減にも効果を発揮します。

未病とは、病気ではないけれど、「体がスッキリしない」「体調がさえない」「だるい」「やる気が出ない」といった状態です。未病の状態が続くと、もっと重大な生活習慣病や、治りにくい慢性症状へとつながっていきます。

未病の段階からツボ刺激を行い、体の状態を整えておくことは、多くの慢性病の予防に役立つはずです。

なお、本稿は8つのツボで30の病気を治す本(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

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