たんぱく質の材料であるアミノ酸を日々供給しなければ、私たちは生きていけません。体内でつくることのできない必須アミノ酸は、食べものとしてとることが不可欠です。「良質なたんぱく質」とは、必須アミノ酸が、たんぱく質合成に理想的なバランスで含まれる食品のことで、評価基準は「アミノ酸スコア」が広く知られています。アミノ酸スコアやDIAAS、動物性と植物性たんぱく質の効果の違いや特長について、書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』著者で理学博士の佐々木一さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
佐々木一(ささき・はじめ)
理学博士。山形大学理学部生命学科卒業後、名古屋大学理学部大学院生物学専攻修了。乳業メーカーの研究員を経て、神奈川工科大学管理栄養学科教授に就任。2019年3月に定年退職。研究員時代にホエイたんぱく質の抗炎症作用を発見し、病院向け流動食として商品化。現在、乳清たんぱく質及び乳清ペプチドを用いた筋肉増強作用の研究を進めている。
▼専門分野・研究論文(KAKEN)
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/くにともゆかり、栗生ゑゐこ、Getty Images
「良質なたんぱく質」の判断基準があるの?
必須アミノ酸の含有バランスがよい食品。アミノ酸スコアやDIAASで判断できる
体の中では日夜たんぱく質がつくられ続けており、たんぱく質の材料=アミノ酸を日々供給しなければ、私たちは生きていけません。
特に、体内でつくることのできない必須アミノ酸は、食べものとしてとることが不可欠です。「良質なたんぱく質」とは、生きるために欠かせない必須アミノ酸が、たんぱく質合成に理想的なバランスで含まれる食品のこと。
評価基準としては、「アミノ酸スコア」が広く知られています。
どんな食べものにもアミノ酸は含まれていますが、含まれる量にはばらつきがあります。ヒトのたんぱく質に必要なアミノ酸バランスを基として、各食品に含まれるアミノ酸量のバランスを、アミノ酸スコアという指標であらわしているのです。
▼アミノ酸スコアの考え方~桶の理論
9種類の必須アミノ酸のうち1つでも不足していると、たんぱく質としての栄養価は低いとされる。
もっとも不足している必須アミノ酸を「第一制限アミノ酸」といい、その量をもとにスコアが算出される。
最近では、たんぱく質の「質」を、より正確に測定するDIAAS(digestible indispensable amino acid score/消化性必須アミノ酸スコア)という評価基準も注目されています。
DIAASは、含まれるアミノ酸のバランスだけでなく、消化のされやすさ、体内での利用効率などを総合的に評価したアミノ酸スコアです。これまでの評価基準と違い、100%を超えた値も切り捨てずに評価するのも大きな特長です。
▼おもな食品の評価値
アミノ酸評価値を参考にさまざまな食品をバランスよくとることが、効率のよいアミノ酸補給につながる。
穀類に不足しているアミノ酸は大豆製品に多く含まれるので、組み合わせて食べると不足は補える。
食品 | 消化吸収を考慮しない アミノ酸スコア |
DIAAS |
牛乳 | 100 | 1.159 |
卵 | 100 | 1.164 |
大豆 | 100 | 0.996 |
牛肉 | 100 | 1.116 |
豚肉 | 100 | 1.139 |
鶏肉 | 100 | 1.082 |
精白米 | 61 第一制限アミノ酸:リジン |
0.595 |
小麦 | 39 第一制限アミノ酸:リジン |
0.36 |
出典:Kagaku to Seibutsu 58(1): 54-58 (2020)Tryon Wickersham et al.Protein Supplementation of Beef Cattle to Meet Human Protein Requirements
本稿は『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
結局、動物性と植物性どっちがよいの?
それぞれ得意分野があるのでバランスよくとりたい
たんぱく質には動物性と植物性があり、筋トレには消化吸収率の高い動物性がよいですが、では、動物性だけをとればよいのでしょうか?
牛乳由来のホエイプロテイン(動物性たんぱく質)と大豆由来のソイプロテイン(植物性たんぱく質)を例にみてみましょう。
ホエイには筋肉合成のスイッチとなるロイシンが豊富で、アミノ酸の吸収スピードが速いのが特徴。摂取後血中アミノ酸濃度が一気に高くなりますが、持続時間が短いのが弱点。
運動直後にとれば、速やかに筋肉の材料を供給することができて効果的です。
一方、ソイにはポリフェノールや食物繊維が豊富で、アミノ酸はゆっくり吸収されます。血中アミノ酸濃度はホエイのように高くはなりませんが長時間維持することができます。
脂肪燃焼効果も期待できるソイは、たんぱく質が朝まで無補給となる睡眠時間に備えて、夜にとるのが効果的です。
また、ホエイは筋肉合成を促進する効果が高く、ソイは筋肉分解を抑制する効果が高いこともわかっています。
以上のことから、動物性と植物性はそれぞれ得意分野が対称的であるのがわかります。両方をバランスよくとるのが得策でしょう。
▼筋肉代謝に及ぼす効果の違い
休息時、運動後のたんぱく質合成と分解の収支を比較。さらに運動後に動物性たんぱく質をとった場合と植物性たんぱく質をとった場合で、筋肉の合成と分解の収支を比較。
動物性、植物性に限らず、たんぱく質をとると収支は合成になるが、動物性は合成率が高く、植物性は分解率が低いため、結果合成率が高くなる。
肉? 魚? 大豆?結局どれをとればいいの?
肉ばかり、大豆ばかりではもったいない!相乗効果のダブルたんぱくがおすすめ
たんぱく質源となる食品には、当然ですがたんぱく質以外の栄養素に違いがあります。特定の栄養素に偏らない食事、それぞれの食品のよさを生かす食事にするため、さまざまな食材からたんぱく質をとることが大切です。
たんぱく質の効果的なとりかたとしておすすめしたいのが「ダブルたんぱく」。動物性と植物性、2種類のたんぱく質を同時にとる食事方法です。
必須アミノ酸のバランスがよく、筋肉合成率が高い動物性たんぱく質、筋肉減少を抑制する植物性たんぱく質)。相反する2つのたんぱく質を一緒にとることで、それぞれの特性が生かされ、たんぱく質の吸収率や筋肉量の減少抑制効果が、単独でとるよりも高くなることが明らかになっています。
また、動物性と植物性、それぞれの弱点をカバーすることができるのも利点。
たとえば、脂肪を含んでいるためカロリーオーバーになりやすい肉は、量を減らし、そのぶん大豆製品で補えばエネルギーの低減になります。
米や小麦のたんぱく質には、必須アミノ酸が不足していますが、ごはんには味噌汁や豆腐などの大豆食品を、パンには卵や肉、乳製品などを合わせれば、不足を補うことができます。
▼おもなたんぱく質源の特長
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なお、本稿は書籍『イラスト&図解 知識ゼロでも楽しく読める! たんぱく質のしくみ』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。ヒトの体の約60%は水分で、次に多いのが約20%を占めるたんぱく質。筋肉の原料となることはよく知られていますが、皮膚や髪、爪、血管、内臓に至るまで、たんぱく質から構成されていることはご存知でしたでしょうか。ダイエットの成功も、美しい肌や髪をつくるのも、心身の健康を保つのも、すべてたんぱく質がカギとなっているのです。本書では、たんぱく質のはたらきから、よりよい摂取方法、また摂取不足が引き起こす諸問題について、わかりやすく説明しています。難しい話は苦手という方でも、たんぱく質についてやさしく学べる内容となっています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※たんぱく質はいつ摂るのがよい?「朝たん」のススメ【効率的に摂るには】の記事もご覧ください。