【認知症対応・実践編】認知症の人に言ってはいけないこと やってはいけないこと(5/6)

美容・ヘルスケア

この記事では、認知症になると必ず現れる不可解な行動「中核症状」の中から、記憶障害(何度も同じことを聞く)、高次脳機能障害(無口になる)を紹介します。また、行動や心理の異常から起こる困った行動「BPSD(問題行動)」の中から、暴言・暴力症状(すぐにキレる、暴力をふるう)、不潔行為(トイレに失敗する、汚れた下着を隠す)を紹介します。ご本人の気持ちと、その行為に対する家族の対応の仕方・対処法をアドバイスしています。参考にしてください。

解説者のプロフィール

榎本睦郎(えのもと・むつお)

1967年、神奈川県相模原市生まれ。榎本内科クリニック院長。東京医科大学高齢診療科客員講師。1992年、東京医科大学卒業後、同大大学院に進み、老年病科(現・高齢診療科)入局。1995年より、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)神経病理部門で認知症・神経疾患を研究。1998年、医学博士号取得。七沢リハビリテーション病院脳血管センターなどを経て、2009年、東京都調布市に榎本内科クリニックを開業。日本内科学会総合内科専門医、日本認知症学会認知症専門医、日本老年医学会専門医。現在、一ヶ月の来院者約1600名のうち、認知症患者は7割ほどにのぼり、高齢者を中心とする地域医療に励んでいる。著書に『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)、『笑って付き合う認知症』(新潮社)がある。
▼榎本内科クリニック(公式サイト)
▼研究論文と専門分野(CiNii)

記憶障害「今日は何日?」何度も同じことを聞かれてうんざり

本人の気持ち

初めて質問したことなのに、怖い顔で返事するなんてひどい…

何度も聞くのは自分にとって「大事なこと」だから

「明日はデイサービスに行く日?」
「迎えに来てくれるよね?」
「何時だったっけ?」

こんなことを1日に何度も、ひどいときには数分おきに聞かれたりすると、答えるほうもイライラしてしまいます。その結果、「さっきも言ったでしょ! 覚えてないの?」と、つい声を荒げてしまうのも無理ありません。

こういう場合、聞いてくる内容はたいてい「予定」に関することです。
自分にとって大事なことなので、「私は明日、何をするんだったっけ?」「準備はできているかしら?」「周りに迷惑かけないようにしなくちゃ」と、とても気になっているのです。だから周りに繰り返し尋ねるのですが、記憶を司る海馬が障害されているので、さっき質問したことをきれいさっぱり忘れているのです。

本人にしてみれば初めて聞いたのに、「何度言えばわかるの!」と怖い顔をされたりすると傷つきます。「本人にとっては初めて聞くことであり、とても大事なことだ」と受け入れて、その都度、答えるように心がけましょう。

カレンダーに書いて、目で見て理解してもらう

ただ、1日中この繰り返しでは家族も疲労困憊します。
そこで対策として、リビングなど目につくところに大きなカレンダーをかけ、そこに予定をすべて書き込むことをおすすめします。

デイサービスの日、訪問介護のヘルパーさんが来る日、病院へ行く日など、カレンダーを見れば一目瞭然でわかるようにしておくのです。さらに日付が表示される時計をそばに置いておけば、今日は何月何日かもわかります。これなら、聞いてきたときにひと言「カレンダーを見てね」と言えばすみます。

実はこの「目で見る」ことはとても大事なのです。
人は、耳で聞いた情報よりも、目で見た情報、つまり視覚から入った情報のほうが記憶に残りやすいことがわかっています。認知症でも同じです。

私の患者さんの中にも、ご家族が「これから榎本内科へ行くよ」と言っても、「そんなところ知らん」と言っていた人が、クリニックに来たら、「あ、ここなら来たことがある」と思い出してくれたりします。口で言うより、できるだけ目で見て理解してもらうのがコツです。

高次脳機能障害(失語)言葉が出てこず話したがらない、無口になった

本人の気持ち

思っていることを伝えられない自分が情けなく、もどかしい…

会話ができなくても心まで空っぽになったわけではない

会話は、まず単語から始まり、それが文章につながってコミュニケーションができるのですが、認知症になるとうまくいかなくなります。

単語そのものが出てこない、文章が組み立てられない、相手の言うことが複雑過ぎて理解できないなど、理由もさまざまです。そのため、認知症の人は言葉数が少なくなったり、会話しているのに話がかみ合わなかったり、反対に、相手の言うことは無視して自分の伝えたいことだけを言ってしまい、傍若無人な人と誤解されたりします。

こんなとき、話しても無駄だと思って、会話を中断してしまうのは最悪の対応です。
本人の言葉が出てこないもどかしさを理解しましょう。たとえば「お風呂」と言いたい場合、浴槽にお湯を張って体を洗う場所だということはわかっているのに、「お風呂」という単語が出てこない、そんなもどかしさです。

会話ができなくなっても、心まで空っぽになったわけではありません。私たちと同じように認知症の人にも伝えたい思いがあり、コミュニケーションを望んでいるのです。

デイサービスの職員など第三者との会話を増やす

家族が相手にしなくなってますます会話が減ると、思いが伝わらないイライラや疎外感から、暴力や暴言などの問題行動が起きることもあります。

そうさせないためにも、できるだけ会話のキャッチボールを心がけましょう。言葉にならなくても、相手が何を言おうとしているかは文脈の中で推測できるはずですから、きちんと耳を傾けましょう。そして、こちらから話しかけるときは、複雑な会話を避け、わかりやすく簡潔に話すようにします。

私がおすすめしたいのは、デイサービスで一緒になる同世代の人や職員、傾聴ボランティアなど、第三者との会話を増やすことです。

家族と交わす会話はほぼお決まりの内容になりがちですが、第三者と話すときは「この人はどういう人か」「自分より年上か年下か」「どんな話題がふさわしいか」「敬語を使うべきかどうか」などを判断しなければならないので、家族との会話より脳のトレーニングになります。家族には無口なのに他人と話すと驚くほど饒舌になることもあります。

暴言・暴力症状すぐにキレる、暴力をふるう

本人の気持ち

否定されるとつらい……。私のことをバカにしないでほしい!

プライドを傷つけられる言動に敏感に反応する

大声で怒鳴る、キレる、誰かれかまわず暴力をふるう、などの陽性のBPSD(問題行動)があると家族も手を焼きます。まずは、どんなタイミングで症状が出るのか、原因を見つけましょう。

よくあるのはプライドを傷つけられたとき。認知症の人は感情の抑制ブレーキが効かなくなっているので、自分の要求を否定されたり、弱点や矛盾点を指摘されたりすると、「バカにするな!」と逆上しやすいのです。

こんなときは、ひとまず「あなたのことを気にかけていますよ」と、受け入れる態度を示しましょう。認知症であっても、プライドを傷つけるような言動は敏感に感じ取るし、特に、親は子供に対しては常に優位に立ちたがるものです。その心境を察して、「何をおかしなこと言ってるの、こうでしょ!」などと正論でやり込めないようにしましょう。

ほかにも、話したいのに言葉が出ない、言われた内容を理解できないなど、思い通りにならない自分自身にイライラしていることも原因になります。

笑顔を心がけて、味方であることをアピール

本人なりにもどかしくつらい気持ちでいっぱいなのに、叱ったり指示されたりすると混乱して、ますます怒りを爆発させてしまうのです。複数のことを伝えるときは、本人がちゃんと理解しているか、一つひとつ確認して次の話題に移りましょう。

体力が余っていると、そのはけ口として怒りを爆発させることがありますから、デイサービスで体操やレクリエーションを行い、体を動かすのも方法です。こういった陽性のBPSD(問題行動)には、気持ちを穏やかにする効果のある薬(メマリーなど)が有効ですが、体力を消耗するだけで薬も最小限の量ですみます。

そして、こういうときこそ、ぜひ笑顔を心がけてください。
相手が怒っているからといって、こちらまで険悪な顔つきにならないように。認知症の人は相手の表情を見て、その人が敵か味方かを判断します。家族が怖い顔をしていると「自分を否定する敵だ」と認識して、怒りを増幅させます。一方、笑顔は「あなたの味方ですよ」というフレンドリーな雰囲気を作るので、怒りが鎮まります。

不潔行為トイレに失敗する、汚れた下着を隠す

本人の気持ち

恥ずかしい、みっともない…。子供にだけは知られたくない!

サラリと受け止め、気を楽にさせてあげる

排泄の失敗は、大騒ぎする家族以上に、本人が大きなショックを受け、混乱しています。
失敗したことは自覚しているので、「自分はいったいどうなってしまったのだろう」「子供の前で恥ずかしい」「家族に迷惑をかけて申しわけない」という、みじめさや羞恥心、罪悪感から落ち込みます。

排泄の失敗を子どもに叱られるのは、親としていちばん屈辱的なことでしょう。汚れた下着をタンスに押し込んでしまう人もいるし、私の患者さんの中には、リハビリパンツの汚れた部分をちぎってトイレに流したため、トイレを詰まらせてしまった人もいます。これも「子供にだけは隠したい」という心理の現れでしょう。

尿意を感じにくくなっていたり、トイレに行く途中でがまんができずにもらしてしまうなど、排泄の失敗を叱ったり責めたりすると、本人が萎縮してしまいます。
「年をとれば誰だってこんなものだよ」と、サラリと受け止めてあげると、本人も気が楽になります。

貼り紙やトイレを明るくするだけで解決した例も

失敗の原因は人それぞれです。
尿失禁傾向がある人は、リハビリパンツと尿取りパッドを組み合わせて使ったり、時間を決めてトイレに誘導するだけで、失敗を最小限に食い止めることができます。トイレの場所がわからないなら、貼り紙をしてうまくトイレまで誘導してあげましょう。

実際にあった例ですが、レビー小体型の認知症ながらMMSEは24点もある軽度なのに、夜になるとトイレの場所がわからなくなって失敗するというのです。

奥様の話によると、夜は廊下の照明を消しているそうなので、「廊下とトイレを明るくしてみてください」とアドバイスしました。すると1か月後に来られて、「おかげさまでトイレに行けるようになりました」とうれしい報告を受けました。

レビー小体型認知症の人は、暗くなると物が歪んで見えたり、幻覚が見えたりします。そのせいでトイレの場所が認識できなかったり、トイレや廊下に飾ってある花や置物が怖いお化けに見えて、トイレに行けなくなることがあります。そういう場合は、照明を明るくするだけでBPSD(問題行動)が消えるケースもあります。

認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本
▼認知症介護は小さなガマンの連続。▼「困った行動」にイライラして、ついきつく当たってしまうことも多いでしょう。▼本書では、認知症で現れる「問題行動」の中から、相談の多いものをとりあげ、その理由と正しい接し方、声かけのコツをアドバイスします。▼親のつらい気持ちに気づき、寄り添った接し方をちょっと心がけると問題行動が不思議と落ち着いていきます。▼そして、あなたの介護の負担やイライラも減っていき、なにより、親と家族が穏やかに過ごせるようになるでしょう。

※この記事は書籍『認知症の親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

◆イラスト/森下えみこ

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