暑い日が続くと、食べることもおっくうになりがち。そんな食欲が落ちやすい夏におすすめの「ピクルス」の作り方をお届けします。野菜を酢漬けにしたピクルスは、爽やかな酸味が食欲を刺激し、季節の野菜をさっぱりとサラダ感覚で食べられるのが魅力。たくさん作っておけば、前菜やおつまみの1品として、カレーや肉料理の箸休めとしても重宝します。調味液とピクルスは、タルタルソースや南蛮漬けにアレンジ可能。最後まで美味しいピクルスの食べきりレシピをご紹介します!
酢の酸味が夏の疲れをケア
まずは、ピクルスの調味液に欠かせない「酢」の魅力に迫ってみましょう。酢(食酢)は米や小麦などの穀類、果実をアルコール発酵させてから、さらに酢酸菌を加えて酢酸発酵させた発酵調味料です。15〜17世紀の大航海時代には、新鮮な野菜や果物の欠乏症が原因の壊血病(かいけつびょう)を予防するため、酢にさまざまな野菜やスパイスを漬けることが盛んになったそうです。現在のピクルスのようなものですね。
酢のすっぱさは、主に「酢酸(さくさん)」の酸味によるもの。すっぱいものを口にすると、酸の刺激で唾液や胃液の分泌量が増え、腸の蠕動(ぜんどう)運動が活発になり、消化が良くなると考えられています。酢酸は体の中でクエン酸に変わり、疲労物質である乳酸を分解してエネルギーに変える働きがあります。クエン酸は、体内の乳酸がなくなるまでエネルギー代謝を続けるので、体力を消耗しやすい夏や激しい運動をした後に、すっぱいものを口にすると疲労感が薄れます。すっぱいものが美味しく感じるのは、体に疲れがたまっている裏返しといえそうです。
酢の高い抗菌力と機能性にも注目
また、酢酸には強い抗菌力があるのも特徴です。ご飯にお酢を混ぜた「すし飯(酢飯)」が腐りにくいのは、酢を加えると雑菌が繁殖しにくい利点を生かした、昔ながらの知恵です。酢漬けのピクルスも、酢酸の抗菌力で食中毒菌や腐敗菌の生育を抑え、保存性を高めています。
ほかにも、小魚料理などにお酢を加えると酢酸の働きで骨が柔らかくなり、カルシウムの吸収率がアップする嬉しい働きも。近年では、大さじ1杯のお酢を食事と一緒に摂ると食後血糖値の上昇が緩やかになったり、肥満気味の人の中性脂肪を減らす働きがあることなどが発見され、研究が進んでいます(*1)。こうしたお酢が健康に果たす役割(機能性)が、「お酢は健康に良い」といわれる所以です。
酢の種類と特徴
ひとくちに「酢」といっても、スーパーの調味料売り場にはさまざまな食酢が並んでいて迷いますよね。どんな違いがあり、ピクルスにはどの酢が向いているのでしょう。代表的な酢の種類と特徴を調べてみました。
◆穀物酢(こくもつす)
1種類または2種類以上の穀類が原料。原料穀物が1種類で作られたものは、その原料名をつけて「米酢」「玄米酢」などと表示できる。市販されている「穀物酢」は、米、麦、トウモロコシなど、複数の原料を合わせて作ったものが多く、香りが少ないため加熱の影響を受けにくく、幅広い用途に使いやすい。
◆米酢(よねず・こめず)
穀物酢の中で、原料となる米の使用量が1リットル中40g以上のもの。米のみから作られたものを「純米酢」という。米の甘みや旨味(アミノ酸)による独特の芳香があり、和食と相性がよい。加熱すると香りが飛んでしまうので、酢飯や酢の物など加熱しないで使う方が持ち味を活かせる。
◆黒酢(壺酢)
主に玄米を原料とする米黒酢と、大麦のみを原料とした大麦黒酢がある(市販品には米黒酢が多く、単に黒酢と呼ばれる)。発酵および熟成により、褐色から黒褐色に着色。アミノ酸が豊富で、香りとコクが米酢よりも強い。中華料理や魚料理と相性がよい。
◆りんご酢(アップルビネガー)
りんごを原料とする果実酢。リンゴ酸による爽やかな風味と香り、おだやかな酸味が特徴で、マリネやドレッシングなど洋風料理に合う。他の酢と比べてカリウムが豊富。
◆ぶどう酢(ワインビネガー)
ぶどうを原料とする果実酢。赤ワインから作られる赤ワインビネガーと白ワインから作られる白ワインビネガーが一般的。肉料理や魚料理など料理によって使い分けられる場合が多い。ワインの成分であるポリフェノールを豊富に含む。酸味が強いのが特徴。
ピクルス作り初心者には、「穀物酢」をおすすめします。手に入りやすく、香りが控えめで、加熱調理に向いているためです。ちなみに私は、穀物酢、純米酢、りんご酢でピクルスを作ったことがあり、リンゴ酢+純米酢をブレンドしたことも(いずれも美味しくできました)。穀物酢にこだわりすぎず、普段から使い慣れたお酢を使って自家製ピクルス作りを楽しむのもいいと思います。
簡単ピクルスの作り方
基本となるピクルスの調味液は、私が通っていた栄養士養成校の恩師・青山先生の直伝です。漬け込む野菜は、きゅうり、セロリ、にんじん、カリフラワー、赤パプリカ、黄パプリカ、みょうがを選びました。彩りが美しくなる季節の野菜を選んで、食欲アップをはかりましょう。
【ピクルスの基本材料】(出来上がり:1〜1.5リットル保存容器1つ分)
《ピクルス液》
・食酢(穀物酢など)…450ml
・水…300ml
・砂糖…160g
・食塩…18g(大さじ1)
・ローリエ…2〜3枚
・粒こしょう…15粒
《漬け込む野菜》
・きゅうり…2本
・セロリ…2本
・にんじん…1本
・カリフラワー…1/2個
・赤パプリカ…1/2個
・黄パプリカ…1/2個
・みょうが…7個
このレシピで、3人家族が2週間くらい楽しめるピクルスが作れます。抗菌力の強い酢を使ったピクルスですが、手作りの場合は雑菌が入りやすいため、作ってから2週間以内を目安に食べきりましょう。家族の人数や食べたい頻度に応じて、ピクルス液と野菜の量は加減してください。
自家製ピクルスは3ステップで完成!
【彩り野菜ピクルスの作り方】(調理時間:10分)
(1)ピクルス液を作る
酢、水、砂糖、塩を鍋に入れてひと煮たちさせ、砂糖と塩が溶けたら火を止め、ローリエ、粒こしょう(潰さなくてよい)を加え、鍋の底を氷水に当てて冷ましておく。鍋は、酢の酸で変色しにくい、ホーロー鍋がおすすめ。アルミ製の鍋は変色するので避けましょう。我が家はホーロー鍋がないので、マーブルコート加工の鍋を使いました。
(2)野菜を水洗いして下処理をする
・きゅうり:両端を切り、塩少々(分量外)を振って板ずりし、軽く水で洗い流して水気をふきとり、一口大に切る。このひと手間で、きゅうりのイボがなめらかになり、苦味が抑えられ、色鮮やかに仕上がる。
・セロリ:葉を除き、太い茎の筋を包丁やピーラーで取り、長さ3cm程度のスティック状に切り、ひと回し程度の酢(分量外)に浸して味を染み込みやすくする。
・にんじん:一口大に切り、塩少々(分量外)を加えた熱湯で2分程度ゆで、水気を切って冷ます。皮をむくと仕上がりが色鮮やか。皮ごと使えば栄養を丸ごといただけるが、硬さが残りやすいのでゆで時間の調整を。
・カリフラワー:葉を除き、房を分けて一口大に切り、酢少々(分量外)を加えた熱湯で2分程度ゆで、水気を切って冷ます。酢を加えた湯でゆがくことで変色を防ぎ、白色を保ちやすくする。
・パプリカ:種を除き、一口大に切り、熱湯にくぐらせる(15秒程度)。パプリカは生でも食べられますが、サッと湯通ししたほうが口当たりも発色もよくなる。
・みょうが:熱湯にサッとくぐらせる(10秒程度)。パプリカと同様、サッと湯通しすることで口当たりと発色がよくなる。
(3)冷ましたピクルス液と下処理した野菜を、熱湯消毒した保存容器に入れ、冷蔵庫で保存する。漬け込んで2日後くらいから食べごろ。
味がなじみ、食べごろになったピクルスです。みょうがは酢の酸で色素(アントシアニン)が鮮やかな赤紫色に変化しました。カラフルで鮮やかな彩りが食欲をそそります!
ピクルスに使った野菜の栄養成分をチェック
もう1品ほしい時に、冷蔵庫からサッと出して食べられるピクルス。副菜(野菜のおかず)やサラダをわざわざ作らなくても、おつまみ感覚で野菜をたくさん食べられるのがうれしいです。今回のレシピで使った、野菜に含まれる栄養面にも着目してみましょう。
◆きゅうり
約95%が水分で、夏バテなどで食欲がない時も食べやすい野菜の一つ。むくみの改善を促すカリウムが豊富で、青臭さのもとはピラジンと呼ばれる成分で、血液をサラサラにする働きがあるといわれています。
◆セロリ
すっきりした独特の芳香は、アピインなどの香り成分によるもの。イライラや不安を落ち着かせ、食欲増進に働きかけるといわれています。ピクルスに使う茎の部分には、β-カロテンやビタミンCとB群、カリウムなどが量は多くありませんがバランスよく含まれています。また、葉の部分にβ-カロテンが多く含まれているので、炒め物やスープに加えたりして、捨てずに利用しましょう。
◆にんじん
抗酸化力の高いβ-カロテンを豊富に含む、緑黄色野菜の代表格。紫外線のダメージを受けやすい夏には、積極的に摂りたい野菜の一つ。にんじんに含まれるビタミンCを壊す酸化酵素(アスコルビナーゼ)は酸や熱に弱いので、ピクルスは理にかなった調理法といえます。
◆カリフラワー
シミの原因となるメラニンの生成を抑えるビタミンCが豊富で、加熱しても損失しにくい特徴があります。また、ブロッコリーと同様に、生活習慣病を防ぐ機能性が注目されているイソチオシアネートの一種スルフォラファンも含んでいます。
◆パプリカ(赤ピーマン・黄ピーマン)
赤・黄ピーマンには緑ピーマンよりも豊富なビタミンCとEが含まれ、特に赤ピーマンにはβ-カロテンも多く含まれています(黄ピーマンは少なめ)。赤色はカプサンチン、黄色はゼアキサンチンという色素成分で、抗酸化力が高いことからフィトケミカル(ファイトケミカル)とも呼ばれています。
◆みょうが
6〜9月においしさの旬を迎える夏の香味野菜。さわやかな香り成分(α-ピネン)にはリラックス効果と、血行をよくして体を温め、発汗を促す働きがあるとされています。クーラーなどによる体の冷えをケアしてくれそうですね。
ピクルス活用アレンジ(1)魚の南蛮漬け
ピクルスを食べるにつれ、調味液が多く残りがちです。そんな時は南蛮漬けにアレンジしましょう。酢を魚料理に加えるとカルシウムの吸収も高まり、一石二鳥。ピクルスと調味液を活用するので、調理時間15分程度で完成する時短レシピになります。
魚の南蛮漬け《作り方:3〜4人分》
(1)玉ねぎ(1/4個程度)とレモン(1/2個程度)を薄くスライスし、ピクルスの調味液(1/2〜1カップ程度)に浸しておく。好きなピクルス(パプリカ、ニンジン、セロリなど適量)も薄切りにして加える。
(2)魚(サバの2枚おろし1尾分を使用)を食べやすい大きさに切り、塩少々をして数分置き、魚から出てきた水気をペーパータオル等でふきとる。
(3)魚の表面に小麦粉(適量)をまぶし、170〜180℃の油で10分程度揚げて油を切り、(1)に加えて味をなじませたら完成!
これからの夏本番は、骨ごと食べられる豆アジや小アジの南蛮漬けもおすすめ(アジのえらと内臓、ゼイゴと呼ばれる尻尾近くの硬い骨は取り除くこと)。疲労回復のビタミンB1を多く含む鶏むね肉の南蛮漬けも美味しいです(むね肉をナナメ薄切りにして塩コショウで下味をつけ、小麦粉をまぶして多めの油で揚げ焼きにします)。
ピクルス活用アレンジ(2)タルタルソース
ピクルスの完成から10日以上が経ち、そろそろ食べきらないと!と思った時はタルタルソースに作り変えましょう。
タルタルソース《作り方:4〜6人分》
(1)玉ねぎ(1/4個程度)、かたゆでに茹でた卵(1個)をみじんぎりにして(卵はフォークで潰してもよい)、ボウルに入れる。
(2)ピクルス10個程度(キュウリ、ニンジン、セロリなど好みで)をみじん切りにして加える。
(3)マヨネーズ(大さじ2)、塩・コショウ(各少々)を加えて、まぜれば完成!
出来上がったタルタルソースを、えびカツにつけて食べました。エビフライや白身魚のフライにも合います。また、タルタルソースをポテトサラダに加えると、食感と彩りにアクセントが生まれますよ。
まとめ
ピクルスは英語で「漬け物」の意味。日本では「酢漬けのピクルス」がおなじみですが、ヨーロッパでは細切りのキャベツを乳酸発酵させたザワークラウトのような「発酵系ピクルス」が一般的です。日本で酢漬けのピクルスが定着した背景には、古くからお酢(米酢や穀物酢)に慣れ親しんできた食文化の影響もあるのでしょう。
気象庁の1か月予報(*2)によれば、今年の夏は気温が高い日が多く、例年にも増して猛暑日に悩まされそうです。疲労回復の働きが期待できるお酢をたっぷり使った自家製ピクルスで、お酢の健康成分と野菜に含まれるビタミンを効率的に摂り入れ、暑い夏を乗りきりましょう!
※参考文献:谷口亜樹子編著『食品加工学と実習・実験』光生館,2020、齋藤勝裕著『「発酵」のことが一冊でまるごとかわる』ベレ出版,2019年、杉田浩一ほか編『新版 日本食品大事典』医歯薬出版株式会社,2017年、飯田薫子・寺本あい監修『一生役立つ きちんとわかる栄養学』西東社,2019、足立香代子監修『決定版 栄養学の基本がまるごとわかる事典』西東社,2015、(交社)日本フードスペシャリスト協会編『調理学 第2版』建帛社,2020年、柳田藤治編「酢の絵本」(社)農山漁村文化協会2014年、久保田紀久枝・森光康次郎編『食品学-食品成分と機能性-』東京化学同人,2017年、白鳥早奈英・板木利隆監修『もっとからだにおいしい野菜の便利帳』高橋書店,2009
レシピ協力◆食品学専門家 青山佐喜子さん
博士(学術)・管理栄養士・製菓衛生師・食生活アドバイザーで、短期大学の食物栄養学科などで長年にわたり多くの栄養士を育成。数多くのオリジナルレシピを教え子たちに伝えてきた。筆者も教え子の一人。
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文◆ 野村ゆき(栄養士・編集ライター)
編集ライター歴25年以上。食と栄養への興味が高じて、栄養士免許と専門フードスペシャリスト(食品流通・サービス)資格を取得。食品・栄養・食文化・食問題にかんする情報を中心に分かりやすい記事をお届けします。この夏は、自家製ピクルスと白ワインで暑気払いしたいと思います。次回はピクルスと相性の良い、夏にぴったりのドライカレーレシピをご紹介します!